万年筆が進学や就職、昇進のお祝い記念品として市場でもてはやされたのはもう何十年も昔のことだ。しばらく使わないとインクが乾燥したり、頻繁に使えば直ぐにインク切れを起こす。現代人には、万年筆とはけっこう面倒で扱いにくいモノだ。
風情のない簡単確実なカートリッジ式ならインクの交換もスムースだが、スポイト形式の伝統あるインク吸入方式なら、インクボトルからインクを吸い上げるにも慣れやコツ、そしてペン先を傷めないように、インクボトルのインクを周囲にまき散らさないように、細心の注意が要る。万年筆とは気難しいモノだ。
何より、紙に筆記した文字はしばらく紙面上にインクの水たまりを作り、右利きの人ならまだしも、左利きの人は今書いたばかりの文字の上を擦らないように細心の注意が必要だ。そんな万年筆が、油性ボールペンや水性ボールペン、ローラーボールペンなどに市場を取って代わられるのは時間の問題だった。
今や死語となったワープロが登場し、何でもできるパソコンが普及し、筆記具の世界は狭まり、それに比例するように万年筆の市場はより加速的に縮まった。しかし、大きなムーブメントには必ずそれに対抗する勢力が生まれ、筆記具は人類が何千年も体験、蓄積してきた文字を書くという習慣を呼び覚まし、多様なノートの登場と相まって再び脚光を浴びる商品となってきた。
現代の万年筆は、違いの分かる大人がリバイバルさせ、昨今増殖してきている文具女子がその裾野を拡大した、と思っている。この10月に発表された、何度名前を聞いても決して覚えられないパーカー社の「インジェニュイティ」という筆記具は、従来のどの筆記具のカテゴリーにも入らない「第五世代」の筆記具という触れ込みでデビューした。
新しモノ、珍しモノ大好きの筆者は、先行販売を行なっていた銀座三越に直行して購入した。先行販売の商品には、ペンケースや記念品のメモなどが付属している。インジェニュイティには軸の太さによって2ライン、外装によっていくつかのモデルがあるが、筆者の購入した万年筆は、「スリム・ブラックラバーPGT」というモデルだった。
「戦略的衝動買い」とは?
そもそも「衝動買い」という行動に「戦略」があるとは思えないが、多くの場合、人は衝動買いの理由を後付けで探す必要性に迫られることも多い。
それは時に同居人に対する論理的な言い訳探しだったり、自分自身に対する説得工作であることもある。このコラムでは、筆者が思わず買ってしまったピンからキリまでの商品を読者の方々にご紹介し、読者の早まった行動を抑制したり、時には火に油を注ぐ結果になれば幸いである(連載目次はこちら)。
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