米アップルのスティーブ・ジョブズ前CEOが逝去したとの報は、当然のことながら、日本でも朝から、大きな話題となった。ニュースが配信された午前8時過ぎには、出社したばかりのIT関連企業の社員たちから、筆者の元にもこの話題に関するメールが届き始め、お互いに情報交換をするような形でメール上の会話が進んでいった。
また、Twitterなどのソーシャルメディアでもこの話題で持ちきりになり、午前中に訪れた電機大手企業の記者会見でも、広報担当者との第一声は、「今朝はびっくりしましたよ」とジョブズ氏の話題。製品発表を予定していた各社にしてみれば、今日の会見内容がニュースとして掲載されるかどうかという本音での不安感もあったに違いない。
ジョブズ氏逝去のニュースの影響力は、バラク・オバマ米大統領による追悼コメントの発表や、米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長の追悼コメント、そしてGoogleのトップページに、「Steve Jobs」の文字が書かれ、アップルのページにリンクされたという数々の出来事でも証明されよう。
ジョブズ氏のこれまでの功績は、多くのメディアで書かれているので、ここでは詳細に触れるつもりはない。だが、ひとつ触れておきたいのは、ジョブズ亡きあとのアップルはどうなるのかという点だ。
筆者のもとにも、日刊紙をはじめとするニュース媒体から問い合わせがあったが、ニュース媒体の興味は、まさに、「ジョブズ亡き後のアップルはどうなるのか」ということに尽きた。
この点については、意見が分かれることだろう。
一部のアナリストや業界関係者が「アップルはジョブズ亡きあとも、あと2年は持つだろう」というような観測を示している一方で、株式市場ではアップルの株価下落が見られるなど、すでに今後の事業成長を懸念するといった動きも見られている。
しかし確かなのは、我々がアップルの魅力的な製品を購入する場合、意識する、しないに関わらず、製品の先にあるジョブズ氏の想いや、息づかいのようなものを感じていたということだ。
だからこそ、iPhoneやiPad、iPodのすばらしさを直感的に受け入れられることができたし、その世界を体験してみようという気になった。そして、それを所有することで、どこかでジョブズ氏へとつながっているという気持ちになったことも事実だろう。
裏を返せば、今後、アップルから登場する製品に、ジョブズ氏の想いや、息づかいといったものを、我々が感じ続けることができるのかがポイントになる。
ジョブズ前CEOが逝去する前日の10月4日(米国時間)、米アップルは、iPhone 4Sを発表した。ティム・クック氏にCEOが変わってから初の大型製品であり、その発表内容やプレゼンテーションの方法にも注目が集まった。
実際に、同社本社にあるタウンホールで行われた発表の映像をみると、ジョブズ氏が行わないプレゼンテーションにはどうしても寂しさを感じざるを得ないが、その発表された製品や技術の裏には、明確にジョブズ氏の顔が透けて見えた。
紹介された新たな機能を見るにつけ、ジョブズ氏がかなりこだわりをみせ、社員にハッパをかけながら機能を強化したのだろうな、などということを、自然と想像しながら映像に見入っていた自分がいたのは確かだ。
月日を追うごとに、今後発表される製品に対して、そうしたジョブズ氏の顔が透けて見えるといった感覚が無くなっていくことになるだろう。それは紛れもなく、ジョブズ氏亡きあとのアップルの製品が登場してくるからだ。
そして、もはやジョブズ氏がいないということを強く認識すればするほど、どんなすばらしい製品が登場したとしても、ジョブズ氏が作った製品ではないという、いわば裏返しともいえる反作用が起こる可能性もある。
もちろん、多くのアップルユーザーはアップル製品をこれからも支えていくだろう。しかし、アップルは、まさに大きな転換点に立たされているのは事実だ。
iPhone 4Sは明確にジョブズ氏の息づかいが感じられる製品であり、話題の新技術であるSiriに対してもジョブズ氏の多くの意見が反映されたことだろう。
アップルにとっての問題は、短期的な株価の下落よりも、これから先の製品がどうなるかだ。
まずは次の製品で、ジョブズ氏の息づかいをどれだけ感じられるのか。それによって、これからのアップルの行く道が左右されることになるのかもしれない。

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