高コストといまいちな性能で
普及しなかったEISA
数々の利点を備えていたEISAが、なぜ流行らなかったのか? それは高価格と、それほど高いとはいえない性能が原因である。
ISA Busに比べて大幅に複雑化したバスとなったため、EISAはもっぱら、ワークステーションやサーバーグレードの製品のみに採用されていた。まれにPC向けにEISAを搭載したマザーボードが市場に出回りもしたが、スペックをよく見るとEISAの規格を完全に満たしていない「なんちゃってEISA」の場合も多く、「ここにEISAカードを差すと、ISAとして動く」といった具合であった。
数が出ないと価格が高止まりするのはなかば必然で、価格は最後まで下がらなかった。また性能に関しても、ISAとの互換性を保つためにバスの周波数を8.33MHz以上に引き上げられなかったし、EISA対応デバイスもあまり出なかったから、そうなるとただのISAと変わらない。帯域不足の問題は依然として付きまとった。
EISA対応デバイスもISAに比べれば高速とはいえ、実効20MB/秒はあまり速いとは言えない。その後に登場したVL Busは、33MHz/32bitで理論上132MB/秒、実効転送速度でも30~40MB/秒近く出るケースがあったから、これに比べるとどうしても見劣りする。そんなわけでサーバー向けには引き続き使われたものの、PC向けにEISAはほとんど普及しなかった。
486時代に普及したVL Busの登場
その代わりとして登場したのが「VL Bus」である。構造は図3のようになっており、ISA Busとは切り離してアドレス/データバスを提供する仕組みである。
VL BusのベースとなったのはIntel 486のCPUの信号線だが、Intel 486の場合、データは必ず32bitで出力される仕組みだった。もし1byte分だけを出力したい場合、「BE」(Byte Enable)という信号を併用して、「32bitの信号のうち、どのbitが有効なのか」を指示する。これがそのままVL Busにも引き継がれた。
また486自身がバースト転送をサポートしている関係で、VL Busもバースト転送をサポートする。その一方で、VL Bus自身はDMAやIRQの信号線を持たないので(なぜかIRQ 9だけは追加されている)、これらの制御はISA BusなりEISAの信号をそのまま使う。
VL Busは「なるべく手早く標準化して製品を投入しよう」ということもあり、あまり凝ったバスにはなっていない。端的に言えば、バスの調停そのものはISA BusないしEISAで行ない、一度バスの利用権を握ったら通信はVL Busで行なう。通信が終わったらISA・EISA経由でバスを開放する、といった手順になる。こうした簡単さと信号速度の速さもあって、当時は一気に普及することとなった。
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