ファシリテーターとして調整していく
―― 「みんな」の気持ちが同じところを向くようにする。ものづくりの上では、そのための環境作りや雰囲気作りが大事だということでしょうか。
高橋 はい。クライアントさんたちだけじゃなくて、クリエイターに関しても同じなんです。みんながワクワクする、それを共有する。これは僕らの言い方なんですが、ワクワクが出ていると、みんなが盛り上がってくれて、新しい発想が出て、映像的にも盛り上がりますね。「プレアデス」では、佐伯監督、菊地さん、大塚さんのワクワクを、いかに映像に落とし込むかというところも重要でした。
菊地さんは、イメージを土台から作るのが得意で、オリジナル作品である「プレアデス」のいわゆる“引き出し”ですね。佐伯監督は、柔らかい映像表現や、キャラクターの細やかな心理描写が得意な方なので、菊地さんが出してくるひとつひとつのイメージを、佐伯監督が集めて自分の作りたい映像にもっていく。大塚さんは、佐伯監督と菊地さんが語っている、端からはわかりにくいイメージを、うまく具体的な絵にしてくれました。
(C)FUJI HEAVY INDUSTRIES / GAINAX / S×G アニメプロジェクト実行委員会
―― 皆さん、役割分担があるんですね。
高橋 はい。でも、佐伯監督や菊地さんはクリエイター気質というか、純粋でストレートなところがあるから、「自分はこうしたい、こういうのがいい」というのがそのまま出ちゃうんですよ。佐伯監督はこれをやりたいと言うし、菊地さんは菊地さんで、いや俺はこっちなんだと。合わないんですよ。まあ、よくぶつかって、合わないんです(笑)。
―― 合わない「こうしたい」を、どのように調整していたんですか。
高橋 佐伯監督と菊地さんは、とにかく長い時間よく話し合っていました。あとは僕の仕事なんですけど、彼らのやりたいことを殺さないように、けれど、最初に決めた方向性とかスケジュールについてはブレることがないように、完成に持っていく。感覚を重視するような制作現場だと、そういったコントロールがすごく大変ですね。
―― 作り手の新しい発想を殺さないように、製品として完成するように持っていくわけですね。どのようにコントロールしていきました?
高橋 「コントロール」するというより、「後押し」するようにしました。それぞれみんな、やりたいことを目指してあちこちに飛んでいくから、当初決めていたゴールとズレてくる。そうしたときに、彼らのやっていることをザクッと否定してしまうと、クリエイターは感覚が止まっちゃうんですね。
だから、「なるほど、それならこっちの案も入れていけばいいんじゃないの」というふうに、ズレたところをちょっとずつ戻してあげて、当初のゴールに近づけていく。そんな感じかなと。僕の役割としてはファシリテーター(調整役)に近いと思います。
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監督側は「YouTube」そのものも挑戦だった
高橋 僕らは新しいことに挑戦していく集団だとお話ししましたが、佐伯監督にも、「プレアデス」で挑戦したいところがありました。
今回、アニメーションとしての尺は約6分×4本で約25分間と、テレビシリーズに比べて短いんですね。だから、物語を説明するにもキャラクターを紹介するにも尺が不足する。一方で、今回の媒体はYouTubeというネット配信だから、何回でも繰り返し観ることができるわけです。
佐伯監督が言っていたのは、「視聴者が1回観て満足して終了じゃなくて、『何か足りないな、でももっと観たい』と繰り返し観てくれたら、今回のプロジェクトは成功ですよね」ということでした。作品が面白いだけというよりは、何か“足りない”感じを視聴者の側に抱かせる作りにしておく。足りないものを自分から探しにきてもらうという構図ができれば、その映像はきっと繰り返し観てもらえるだろうと。
―― それはスバルの鈴木さんがおっしゃっていた、「宝探し」ともリンクしますね。
高橋 はい。情報がまったく足りないだけだと、視聴者はすぐにポチッと消してしまうんです。単に情報が足りないのではなくて、“もう一回観れば別の発見がありそうだ”と思わせられるものを作品に埋め込んでおく。「プレアデス」本編では、説明してない部分も多いんですけど、何回も観てもらえればわかることがたくさん入っているんですね。
―― 全部を見せるのではなく、取っかかりになるフックだけは付けておく。
高橋 もっと細かく説明できたほうが良いんでしょうけれども、今回は尺が短いから、ピンポイントで散りばめておくという。うれしかったのが、プレアデスのPV(ページビュー)が、本編の配信も開始した後もどんどん上がっていったことですね。通常の場合、PVの役目は本編が流れればもう終わりなので下がるものなんですが、お客さまがもうちょっと観たい、知りたいと思って何回もクリックしてくれたのかなと。
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(次ページに続く)
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