車を出さずにスバルのイメージを出すには
―― 「放課後のプレアデス」は、商品である車を出さずに「スバルらしさ」を出していくという方向性になったと、スバルの鈴木さんからうかがいました。
高橋 はい。僕らもそうしたいとは考えていたんですが、車を出さずに「スバルらしさ」を出すというのは、やっぱり難しかったです。実は、僕自身もスバル車が大好きで、レガシィ仲間とサークルを作っているくらいのファンなんです。今回「プレアデス」に関わっている皆さんとよくお話したんですが、スバル車の良さは何かというと、それはパワーとかスピードとはちょっと違うところにあるよね、と。乗り心地がいいとか、座っていて安心する、走っていて一緒になれる……そんな車との一体感があるという感じなんです。でも、映像の中で、スピードやパワーではなく「乗り心地」などの柔らかい部分を表現するのはすごく難しんですよ。
(C)FUJI HEAVY INDUSTRIES / GAINAX / S×G アニメプロジェクト実行委員会
―― アニメーションでは、スバルの良さをどのように落とし込みましたか。
高橋 「プレアデス」は、監督の佐伯昭志さん、世界観を設計したコンセプトアートとキャラクター原案の菊地大輔さん、キャラクターデザインの大塚 舞さんが中心になって作っています。「魔女っ子」というフォーマットは、短い尺の中で、視聴者の方が物語やキャラクターを把握しやすくするために佐伯監督と菊地さんが採用しました。そのフォーマットの中で、自分たちが思うスバルの良さを映像イメージ的に変換して、アニメーションに入れ込んでいくという形になりました。スバル車そのままを入れたわけではないので、「わかる人にわかればいいな」というクリエイターのこだわりを逆に出せたらと。
―― スバル車をそのまま入れるのではなく、イメージ的に変換したのは、作品性を損なわないようにという狙いですね。
高橋 はい。すばるたちが活躍する学園ものの中で、そのモチーフだけが浮いてしまわないようにしました。でも、ひとつだけ、その流れに逆らった個所があるんです。すばるたちが空を飛ぶときに杖が発するエンジン音ですが、ここにはスバルのエンジン音をそのまんま入れています。入れてみようかと提案をしたのは佐伯監督なんですが、僕も賛成しました。
―― 「浮いてしまう」と思いつつ、なぜエンジン音をそのまま入れたのでしょうか。
高橋 これはガイナックスだけの課題というわけではないのですが、自分たちの作りたいものだけを一番に考え過ぎると、お客さまに対して伝わりにくくなってしまうという側面があります。「わかる人にはわかる」という形だけを連ねていくと、今回の場合はただの「GAINAXが作ったアニメ」になってしまい、「スバル」との関連性が損なわれてしまう。それではこのプロジェクトの意味がなくなってしまいます。生のエンジン音に関しては、確実にアニメと合わないだろうと誰もが思う部分だったので正直ダビングの現場まで悩んだのですが、豪快に入れていただきました。これが逆に違和感となって、映像としてはお客さまに特に印象付けた部分になったかと思います。GAINAXのアニメと、スバルとの融合。映像として、ひとつの挑戦でした。
(C)FUJI HEAVY INDUSTRIES / GAINAX / S×G アニメプロジェクト実行委員会
「みんな」でイメージを共有する
―― スバルの鈴木さんから、木造の廃校で合宿をしたともうかがいました。
高橋 それは、菊地さんが「アニメーションの参考にするような古い木造校舎を実際に見たい」と言ったことから始まったんです。そこで僕も、じゃあみんなで行こうと思い立って、うちのスタッフだけでなく、みなさんにも参加をお願いしました。
―― 鈴木さんによると、大変な場所だったそうですね。“クライアントさん”をそういう場所に呼ぶということにも驚きました。
高橋 そうですか(笑)。僕らにはクライアントだからどうという考え方はなくて、ものづくりをする上では同じ「みんな」であり「仲間」なんですね。そこに集まる人は同じ言葉を発することができるし、イメージ共有もできる。そう考えています。まあ、実際に廃校に着いたときには、何でこんな汚いんだろうって、みんなそれぞれ本音を言うんですよ。何で俺らここに来なきゃいけないんだろうって。「俺、クライアントだぞ」「俺、電通でお金を払っている側なんだけどな」とか(笑)。でもまあ、彼らから「何だかよくわからないけど面白いよね」というふうに言われたから、それで良いのかなと。
―― 「よくわからないけど、面白い」ですか。
高橋 なぜ合宿をしたのかというと、作り手側として「みんなでワクワクする」という気持ちの盛り上がりが欲しいのと、実際訪れてその場の雰囲気をプレアデスの世界観に反映させたかったからです。
「みんな」と言っても、鈴木さんは車メーカー、電通さんは広告、僕らは映像制作と、役割も立場もそれぞれ違っていて、合わない部分も当然あるので、その擦り合わせをしていくんです。でも、みんなが何となく一緒にいてワクワクするとか、どうなっちゃうんだろうというところも含めて感情を共有することで、みんなの気持ちが同じところを向く。それが欲しい、というのがありました。
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(次ページに続く)
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