まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第25回
アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(後編)
覇権アニメ請負人ゆま氏「僕らにはカツカレーしか残されてない」
2011年06月29日 09時00分更新
小さくなってしまった表彰台を目指して
―― 最近はアニメの本数そのものが減っていますが、1作品当たりの宣伝費が増えたりはしないのですか?
ゆま 「うーん、それはないですね。やはり厳しい状態は続いています。会社でも一応の取り決めがあるんですよ。たとえば1クールで1000万、2クールなら千数百万みたいな、ざっくりとしたイメージです。そして僕……すみません!(その予算内に)まったく収められない子なんです」
―― そうなんですか!?
ゆま 「はい。当然予算は決まってます。決まってますが……これはほんとによろしくない考え方なんですけど、3万枚売れたら、別にいいんじゃないのみたいな(笑)」
―― ずいぶんぶっちゃけましたね(笑)
ゆま 「3万枚売って、たとえば宣伝費が1000万だったら、たぶんすごい利益になるはずなんですよ。であれば、2000万とか使っていても、ほら……みたいなね(笑)。こんなこと、ビジネスの場で言ったら怒られるんですけど。
もちろん、結果が伴わないなら、どこかで見切りを付けなきゃいけません。放送開始後のパッケージ予約などで、ある程度売り上げ予測は立ちますから。でも、その数字を見て『よしこれは行ける』ってときは、倍プッシュだ!!みたいな感じです(笑)」
―― 確かに、アニメ業界は大変だという話が多い一方で、ヒット作候補にしっかりお金とパワーをかけてあげれば、今でも十分(ヒット作を)生み出せるという意見も聞きます。
ゆま 「アニメはいろんな報道で斜陽産業……って言うと語弊がありますけど、パッケージビジネスも全体のバジェットとしては右肩下がりとの評価です。でも、セールス全体として目減りしてるわけじゃないんです」
―― ビデオグラム市場全体に占める割合はむしろ上がっていますね。特に、高品質を求めるBDにおいてそれは顕著です。
ジャンル別ブルーレイ販売額 | ||
---|---|---|
ジャンル | 2009年 | 2010年 |
ブルーレイ全体 | 241億1500万円 | 471億9100万円 |
日本の一般向けアニメーション | 121億2800万円 | 255億8300万円 |
海外の一般向けアニメーション | 4億3900万円 | 24億2200万円 |
日本の子供向けアニメーション | 500万円 | 2200万円 |
海外の子供向けアニメーション | 500万円 | 3500万円 |
※日本映像ソフト協会の調査をもとに編集部作成
ゆま 「たとえば近いところでは、今年の1月新番組の中でも、IS<インフィニット・ストラトス>』が3万枚売れたり、ありがたいことですけど『まどマギ』が好調だったりと、ヒット作は出ているんですよ。
アニメのファンは作品をみんなで盛り上げていこうという意識がすごく高い。これはほんとに凄いことで、楽しみ方や参加意識含めて、世界一のコンテンツファンです。ただ一方で、売れない作品も増えてきたとは思います。表彰台が小さくなってきた感じとでも言いますか。
昔は5、6位ぐらいまで表彰台があったんですよ。作品としての評価と共に、ヒットというメダルを首にかけてもらえた。つまり利益が出ていたんですね。
でも、その表彰台の数は、減ったと思います。
1クールのアニメは、提供料(テレビで流すのに必要な放送枠代)から制作費まで含めたら2~3億という投資が必要です。
その大きな投資ビジネスの中で、自分の役割として宣伝をコンテンツ、一個の楽しみ方に変換していくことも大切なんですが、それと同時に、年に何十作品も放映されるなかで、『俺たちは本気なんだぜ!』という想いを伝えたい。(宣伝は)それを伝えるためのツールの1つでもあるのかなと」
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パッケージと無料配信は「カニバらない」
―― 先ほど『ニューヨーク・タイムズ』に広告を打つ話が出ましたが、海外のユーザー向けのネット配信について伺いたいと思います。たとえばP2Pは違法だけれども作品を知らしめてくれているんだと主張する人もいますが。
ゆま 「……でもそれを続けていると、いつかコンテンツは、たぶんなくなってしまうと思うので。やめてねとしか言えません。国内外問わず、違法配信って作品を安っぽいもの・そこら辺に落ちてるものみたいに見せてしまうので、それは作品の未来には繋がっていないと思います。
ただ最近、国内の、特に公式配信についてはちょっと考え方が変わりまして。
うちも一昨年から本編放送と連動したネット配信を積極的に始めました。そして、この1年半とか2年ぐらいの間で経験値が貯まったのですが、個人的には、きちんとした形での公式無料配信はパッケージのセールスを減らすものではないと」
―― カニバらない(共食いにならない)?
ゆま 「“2つの円の重なる部分はココ!”みたいな図ってあるじゃないですか。あんな按配で、テレビをウィンドウとして観る人と、ネットをウィンドウとして観る人はそんなに重ならないというか、どちらもがあることが拡がりに繋がる気がしてます。“ネットで観て、モノを買うという行動が当たり前”の世代が間違いなく生まれてますね」
―― 『俺妹』も、ネットオリジナルのエピソードをニコニコ動画(のアニメチャンネル)で配信中ですね。
ゆま 「そのきっかけとなったのが『化物語』です。1クール(12~13話)で無理にまとめるのではなく、作品にとってベストな話数まで作り、ネットを通して、すべてのファンにきちんとした完結を届ける、という考えでした。
同じように、『俺妹』もちょうど15回できっちりとした処まで描いた終わり方になるんじゃなかろうかという話になりまして。たとえば、(インタビューを行なった5月下旬時に)配信中の『俺妹』第14話はニコ動で70万回以上視聴されています。4月番組で放送連動している作品よりも、数字的には高いんですよ。
ただまあ、テレビに流せばそれはそれで、視聴率1%で100万人と言われる世界ですから、放送という選択肢を捨てるという結論には決して至りませんが。というのも、実は僕自身30歳という年齢もあり、ネットでアニメを観ることに対して、少し抵抗がある世代だったりするんです。
しかし、会社としても『化物語』『俺妹』『まどマギ』などの成功体験も重ねてきて、自分の考え方も変わってきました。認めないのは、たぶん時代と逆行している気がします。
『化物語』でも、数字的な初動が一番良かったのは、配信のみの最終話が収録された第6巻なんです。
テレビメディアの力を過小評価することは絶対にいけないと思いますが、ネットウィンドウという存在を無視するのも、いい加減そろそろ違うかなと。ただ、ネット世界は毎月潮目が変わるので、半年後にはまた違った状態になっていると思います。常に見極めていかないとですね」
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―― ネット配信のみでヒットしたわけではなく、テレビのリーチがあったからこそ、「ここから先はネットで観てね」という手法が成立したと。
ゆま 「そうですね。ネット配信オンリーに踏み切るのは――そのヒット事例として『ヘタリア Axis Powers』があるものの――怖いです。まだまだ“テレビアニメ”という冠は有効で、テレビで観られるものには、えも言われぬ付加価値というか……」
―― メジャー感というか。
ゆま 「そういうものが働いている気がしますね」
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