まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第25回
アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(後編)
覇権アニメ請負人ゆま氏「僕らにはカツカレーしか残されてない」
2011年06月29日 09時00分更新
総合Pとしてアニメコンテンツエキスポを振り返る
―― では最後にアニメコンテンツエキスポ(以下、ACE)についていくつか質問を。まずは開催のきっかけを聞かせてください。
ゆま 「東京都青少年健全育成条例にまつわるさまざまな動きがあり、弊社で扱わせていただいているいくつかのアニメ作品が、東京国際アニメフェア(以下、TAF)へ出展するのが難しくなってしまった状況の中で、『ファンに対して、企業として100%でない状態で参加するのはどうなのか?』という議論が社内であったんです。
同時に、これまでメーカー横断企画でご一緒してきた各社のみなさんたちと情報交換したところ、やはり同様の悩みをお持ちという話になりまして。
『であれば、ファンと作品のために、共同で独自開催をするのはどうだろう?』というアイデアが誰からというわけでもなく生まれて、開催の可能性をみんなで一緒に探り始めたのがきっかけです」
―― 12月8日の角川書店 井上社長によるTweetの時点で、ACEの構想はどの程度進んでいたのでしょうか?
ゆま 「まったく、影も形もありませんでした(笑)。各社さんとお話を始めたのは、あのTweetの数日後だったと思います。そこからみんなで色々動いて、2週間くらいで骨格を固めて、なんとか頑張って年末に開催を発表したという流れです。
あの2週間は、電話とメールがもの凄い勢いで飛び交っていました(笑)」
―― 総合プロデューサーに就任された経緯とその役割を教えてください。
ゆま 「最初に行なわれた会議の議事進行を弊社代表取締役の夏目(アニプレックス代表取締役 夏目公一朗氏)が担当しまして、そこから何度かの会議を経て、今度は各社の現場メンバーで会議をすることになったんです。
最初の会議の議事進行が弊社代表だったが故の流れで、なんとなく僕が現場会議の議事進行をしたことと、イベント運営会社が『ひだまり王決定戦』などを担当した弊社のグループ企業だったので、いろいろと進めやすかったからですね。
あとは、僕が1月も4月も担当の新番組がなかったので、一番暇だったというのも大きいです(笑)」
―― 総合プロデューサーとしては具体的にどのような仕事を?
ゆま 「実際は、総合プロデューサーというほど偉そうなものではなく、全体の取りまとめ係みたいなものでした。
毎週各社の現場メンバーの皆さんと打ち合わせをする前に、運営会社さんと議題を詰めたり、会議の議事進行をしたり。あくまで取りまとめをしていただけで、決定しなければならない膨大な量の案件は、すべて各メーカーの担当者全員で決めた感じです。
ただ、最長6時間の会議がありまして、その議事進行はさすがに疲れた記憶が(笑)」
―― 「アニメメーカー横断 宣伝マンブログ」などで培ってきた“横のつながり”は活かされましたか?
ゆま 「“一緒に何かをやる”というのが割と普通なことになっていたので、“一緒にやるか否か”ではなく“どうすれば一緒にやれるか”という議論から始まったのは、これまで培ってきたものが活かされたからかなと思います」
―― TAFと同日開催ということもあり、各社への対応には苦慮されたのでは? 苦労話・反省点などあれば。
ゆま 「都内近郊のあらゆる会場を探して、偶然TAFと同日の幕張メッセしか空いていなかったんです。それが故に、対抗意識はまったくなかったのですが、結果として“TAF VS ACE”という構図ができてしまったのは、関係各所へのご迷惑と共に、何よりファンに無用の混乱を与えてしまい、非常に申し訳なかったと思っています。
そして、とにかく時間がありませんでした。約3ヵ月ですべてを決めないといけない状況で、しかも急遽開催でしたから、関係各所皆様から叱咤激励さまざま頂戴しまして、その中でより良い選択をしていくのは、難しい局面も多かったですね」
この連載の記事
-
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる -
第95回
ビジネス
なぜ日本の音楽業界は(海外のように)ストリーミングでV字回復しないのか? -
第94回
ビジネス
縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた -
第93回
ビジネス
縦読みマンガにジャンプが見いだした勝機――ジャンプTOON 浅田統括編集長が語る -
第92回
ビジネス
深刻なアニメの原画マン不足「100人に声をかけて1人確保がやっと」 - この連載の一覧へ