2011年7月5日から4日間、東京ビッグサイトにおいて「第19回東京国際ブックフェア」が開催された。同時に「第15回国際電子出版EXPO」も併催されている。
本連載では、電子書籍を切り口にメディアの変化を考えはじめ、昨年のブックフェアも取材している(関連記事)。今年も各会場の展示や、注目の講演の模様を通じて、電子書籍元年から1年が経った現状をお伝えしたい。
主役は端末からプラットフォームへ
昨年のブックフェアは、電子書籍を前面に押し出したブースが多く、Googleも「Googleブックエディション」をプレゼンテーションするなど、異様な熱気に包まれていた。
そんな昨年と比べれば、Googleも出展を見送った今年は一見落ち着いた内容に見える。
東日本大震災後に、紙やインクの供給不足から主に雑誌を中心に電子版が無料配信されたのは記憶に新しいところだ。震災という緊急事態ではあったとはいえ、権利関係や技術面では電子化への対応が可能であることが垣間見えた機会でもあった。
つまり電子出版が構想から運用の段階に入った最中に開催されたのが、今回のブックフェアだ。表面的な落ち着きとは裏腹に、フォーマットやプラットフォームの分野では様々な取り組みが紹介された。
しかし同時に“日本型の電子出版”を目指すゆえの課題も浮き彫りになっていると筆者には感じられた。
次の潮流は“電子書店連携”にあり
昨年発売されたソニーのReaderや、シャープのGALAPAGSなどが市場で苦戦する中、楽天ブースではパナソニック製の新型端末が発表され、またNECも往年のΣブックを彷彿とさせる二つ折り端末を展示、来場者の注目を集めていた。
楽天がこの夏スタートさせる電子書籍サービスの売りは、楽天ブックスはもちろんのこと、紀伊國屋書店、ソニーのリーダーストアなど各社の電子書店と連携し、楽天ポイントでの書籍購入を可能にする点だ。7000万人を越える楽天の利用者情報を活かしていきたいという。
Appleが書籍単体でのアプリ審査を拒否して以来、各社はこぞって「本棚アプリ」をリリースし、その中で書籍コンテンツを購入させる形式が主流になったが、その結果として、ユーザーはどの本をどの電子書店(本棚アプリ)で購入したのかを覚えておかねばならず、非常に使い勝手が悪い状態になってしまった。
今回の連携は、この不便の解消を目指したものと言える。
NECブースでは、Android OSを採用する電子書籍端末「LifeTouch W」が注目を集めていた。その姿はパナソニックが2008年に発売したΣブックを彷彿とさせるが、一般発売はされず、主に教育機関や企業などに一括納入する形での市場導入を進めるという。
NECの電子出版分野への取り組みとしては、リスクの大きいコンシューマー市場とは距離を置きつつ、B2Bでの「クラウド型コンテンツ配信サービス」提供など法人市場で着実に利益を上げようとする姿勢が垣間見える。読書端末はビジネスの主役ではなく、システム販売のための1つの道具という位置づけだ。
2010年後半のReader、GALAPAGOS登場を受けて、読書端末を中心とした電子書籍市場が語られる時期もあったが、現在、関係者の期待と関心は「専用端末の普及をきっかけとする電子書籍市場の開拓」から、急速に普及が進みつつある「スマートフォンとその上で動作する販売プラットフォーム」に移りつつある。

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