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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第25回

アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(後編)

覇権アニメ請負人ゆま氏「僕らにはカツカレーしか残されてない」

2011年06月29日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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新聞の全面広告に、広告効果は期待していない

―― 一方で、あまりにも「力入れてます、本気です」と連呼されると、疑ってかかってしまいますよね。

ゆま 「そうですね。だから直接的に伝えるというよりは、なんとなく察してもらう感じと言いますか。

 以前、新聞にバーンと全面広告を打ちましたが、あれは新聞購読者に作品を知ってもらうためではありません。今の若い人たちは、新聞を取っている人ばかりではないと思いますし。

 あれは広告効果云々ではなく、ファンがどこからともなく全面広告の噂を聞いて、『またアホなことをやってんなあ』と受け止めてもらえればうれしいんです(笑)。

 ちなみに、件の『とある魔術の禁書目録II<インデックスII>』と『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の合同新聞広告は、キャッチコピーが『立ち上がれ、日本経済』なのですが……余計なお世話ですよね、日本経済からしてみたら(笑)」

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2010年9月26日、日本経済新聞の朝刊に突如『禁書目録』と『俺妹』のヒロインを配した全面広告が掲載され、大きな話題となった

―― ただ、これを打つことで新聞を取っていない人たちにもTwitterなどを通じて「おい、日経に広告が出てるぞ」と伝播していく。そして“面白いイベントが起きてる”感が湧き上がる、と。

ゆま 「ネットという媒介を通じて、いかに番組というお店の行列に並んでもらうか。ネットの力は本当にでっかくなりましたね。特にここ2、3年は強烈です」

―― 同じお金をかけるにしても、Yahoo! JAPANのトップバナーではなく、日経の全面広告というところがミソなわけですね。

ゆま 「ネットに親和性のない作品であれば、逆にYahoo! JAPANのトップバナーは面白いかもしれません。そのロジックでいくと、『俺妹』と一番縁遠いものを考えたときに、日経新聞だったんです。意外性があればあるほど化学反応は」

―― 起きやすい。

ゆま 「……かな~と(笑)」

―― ベタな、直接の広告効果ではない。

ゆま 「そうです。別の作品で『ニューヨーク・タイムズ』に打ったらどうだろうと思案したこともありまして。調べた結果、(広告を)打てることはわかったのですが、そこまでの変化球だと、さすがにお客さんのミットに入らないと思ってあきらめました。暴投になっちゃうので」

―― いつか、NYTに広告が載ることを期待しています(笑)。化学反応という意味では、『魔法少女まどか☆マギカ』のそれはすごかったですね。

ゆま 「僕は『まどマギ』の宣伝担当ではないので、あまりあれこれ言えないのですが、それでもネットの反応には目を見張りました。ただ、まずは何よりも作品としての総合力が極めて高かった。

 スタッフ・キャストも含めた映像作品としての総合力ですね。どれか1つ欠けても、こうはならなかった。『劇場版 空の境界』のときにも目にした、高い次元の化学反応がまずそこにはあったと思います。

 そして、それに刺激を受けて、ネット上にさまざまなコンテンツが生まれました。こう言うとまた語弊があるかもしれませんが、まとめブログとか、Twitterのつぶやきとか、あるいはユーザーが作ったもの、それらはありがたくも1つの宣伝コンテンツだと思うんです。

 結果、毎週のアニメ放送自体が、みんなの力でどんどんイベント化していったと感じていました」

震災で中断した『まどマギ』だが、その間に増殖したCGMによってファンが急増。そして最終話放送当日の読売新聞には「完結編本日放送」と謳った全面広告が掲載され、盛り上がりは最高潮に達した

―― しかも、物語が急展開した10話直後に(東日本大震災の影響で)中断されたことで、期待感が保持されたまま祭りが延長され、挙句、最終2話を一挙放送という本当のイベントが実現してしまった。

ゆま 「縁日にいくら屋台が出ても、お客さんがいないとお祭りにはならないじゃないですか。

 とにかくお客さんが、ある種の生殺与奪を握っていると思います。お客さんの力は、ものすごく強いとあらためて感じました。

 そこには上下関係って、もうないと思うんですよ。作る側と受け取る側って並列・フラットな気がするので。

 僕たちが伝える、お客さんは楽しむ、作り手は作る。そんな具合にそれぞれコンテンツとの関わり方が違うだけ。

 僕の仕事は、一緒に楽しいお祭を作りませんか? とお誘いする感覚ですね」

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