メモリー編の6回目は、期待を集めながらもはかなく消えた「FB-DIMM」(Fully Buffered DIMM)について解説しよう。
高速化するメモリーで顕在化する
信号波形の減衰問題
FB-DIMMのアイデアは、前回解説した「Registered DIMM」をさらに一歩進めたものと考えればいい。Registered DIMMはAddress/Commandをバッファを介してメモリーチップに送ることで、より多数のDIMMをまとめてつなげられるようにするというアイデアであった。
しかし、信号速度がさらに高速化されるとAddress/Commandのみならず、データ信号に関しても精度を維持するのが厳しくなってきた。図1はこれをわかりやすく(実際よりもやや誇張して)示したものだ。基板の上にメモリーコントローラーと2枚のDIMMが装着されたケースを想定している。
メモリーコントローラーから出た時点の信号は、ちゃんとデジタル信号らしくなっているが、1枚目のDIMMの根元で測定すると、信号はだいぶ鈍ってくる。2枚目になると信号の変動はより大きなものになる。これはもっぱら速度に起因する問題である。
DDR-SDRAM世代では「1チャンネルあたりDIMM3枚」という構成がPCでも可能だったが、DDR2-SDRAM世代以降では「1チャンネルあたりDIMM2枚まで」に制限され始めた。これは、特にデータの速度が高速になると、3枚以上のDIMMでは信号の変動が大きくなりすぎてしまうという問題によるものである。
この信号の変動については、もちろんいろいろと対策はある。有名なところでは、あらかじめ信号に「Pre-Emphasis」を施して送り出すとか、受信側で補正を掛ける(イコライザー)といったものである。
Pre-Emphasisとは、ようするに信号の事前補正のことだ。メモリーコントローラーから整った矩形波を送っても、2枚目のDIMMでは大幅に波形が崩れることはわかっている(図2の上段)。この波形を整った形にするには、あらかじめ崩れる波形と逆位相になるような信号を送ればよい。図2中段の赤線で示されているのがそれだ。この波形を送り出すと、2枚目のDIMMでは整った波形が出現することになる(図2下段)。
逆にイコライザーは、波形が乱れて届くことを前提として、その乱れ方から元の波形を再現する機構とでも考えればいい。
問題なのは、こうした手段があまり実用的ではないことだ。例えばPre-Emphasisの場合、2枚目のDIMMにあわせて波形を補正すると、1枚目のDIMMでは逆方向に変化した波形になってしまう。複数枚のDIMMがひとつのメモリーチャネルにつながっている構造では、あまり強力なPre-Emphasisを施して信号を送り出すと、かえってトラブルの元になる。
またイコライザーは、メモリーコントローラーのようなロジック回路に組み込む分にはそれほど難しくないが、DRAMチップは元々そうした複雑な回路を組み込むことを前提にしたプロセスではない。そのため実装は困難だし、コストもかなり上がると考えられるため、これも得策ではない。
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