面白いことはこれから出てくる
―― そういえば最近ボーカロイド製品が乱発気味ですけど、見ていてどうですか?
キャプミラ 選択肢が増えていいんじゃないですか? って、あまりに普通の発言すぎるなあ。結局は自分にとって思い入れのある、好きなボーカロイドを見つけれるかどうかだと思うんで。
―― 新しいボーカロイドが出て盛り上がるのは、まずリスナー側なんですよ。「この新しいボカロ、誰がどう歌わせるのかしら?」という。これもモーニング娘。とか、AKB48みたいな日本のアイドルシーンと同じでしょ。
キャプミラ ですね。新しいキャラが出ると「新メンバー登場!」みたいな感じで。
―― そういう意味でもボーカロイドは楽器じゃないんですよ。日本に特殊な状況を全部連れてきちゃった感じがする。
キャプミラ ただね、音楽そのものもそうだけど、ここまで初音ミクがやってきたことはインターネットの個人配信のインフラを整えてきたってことだと思うんです。現象としては初音ミクのブームだったんだけど、結果的にはいつのまにか個人が配信する環境が整っていた。
―― でも、それは初音ミクがなかったら分からなかった話?
キャプミラ もしなかったら、こうはならなかったと思うんです。たとえばRouteRはなかったと思うんで、CDbabyに頼まなければならなかったし、日本人にとってハードルは高いままだった。ニコニコ動画に音楽をアップロードするという文化も、初音ミクがあったからだし。
―― アメリカにPomplamooseという、おそらくYouTube発のもっともメジャーなポップユニットがあるんです。1日に10万PVくらいは平気で稼ぐのね。つまり初音ミクのようなマスクがなくても、生身でネットでも戦えるわけですよ、本当はね。
キャプミラ 日本ではボーカロイドの存在が、その足かせにもなっているということなんでしょうね。でも、もし初音ミクがなくて、日本にMySpaceしかない状況が2年間続いていたとしたら、今はなかったと思うんですよ。
―― それは絶対になかったですね。
キャプミラ 僕は今回生身で戦うわけですけど、生身で戦うのもどうなんだという、今の若い世代にはそういう疑問もあると思うんですよね。彼らは「別に生身でなくていいじゃん」というところから始まっているので。
―― そこがまた海外との違いになってくるんでしょうね。僕みたいな年寄りは、なんで日本人は面倒くさい「業」みたいなものを抱えているんだろうと悩んじゃうけど、若い子はそっちの方が簡単なんだろうし。
キャプミラ もうひとつ、日本の場合はメディアに牛耳られていたわけじゃないですか、音楽産業そのものが。生身で勝負できないというのは、そういう不自由もあったと思うんですよ。レコード会社や事務所のバックがあって、大きなお金を注ぎ込まないと勝負ができなかったけど、それも崩れつつある。やっぱり今なんじゃないですか。これからどんどん出てくると思いますよ、面白いことは。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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