もちろんこうした問題は対応できないわけではなく、(61回で書いたとおり)同じ90nmプロセスを使いながらもクロックゲーティングなどで細かく消費電力を制御することで、現実的な消費電力に収まったDothanコアの「Pentium M」という例もある。これに続く65nm/45nm/32nmといったプロセスは、すべてリーク電流を抑えるべく数々の手法を投入しており、現実的な消費電力の枠に抑えつつ、動作周波数は再び少しずつ向上している。
特に、インテルがNehalemコアで投入した「PowerGate」と呼ばれる新しい電力管理機構は、非常に効果的に作用している。とはいえ、これらはあくまでリーク電流を抑える効果しかなく、稼動時に消費電力が増えることは避けられない。
しかも、高速動作のためにはある程度電圧を上げてやる必要があるし、すると電圧の2乗で消費電力が増えるため、以前のように無尽蔵に動作周波数を上げてゆくのは、現実問題として不可能になりつつある。前ページで書いた、ノードの負荷容量の低減効果に関しては、もうとっくに美味しいところを使い切ってしまっており、今後微細化を進めていっても、その効果はほとんど期待できないからだ。
現在のトレンドはマルチコア
CPU+アクセラレーターが今後のトレンドに?
こうした理由で、動作周波数を上げる以外の方向で性能を上げるべく登場したのが、マルチコア/マルチスレッドの方向性である。ひとつのプログラム/スレッドを走らせるだけではあまり効果が感じられないが、複数プログラム/スレッドを同時に実行する場合には効果的である。(体感性能はともかくとして)カタログスペック上はコア/スレッドの数だけ性能が上がることになるわけで、動作周波数と消費電力をその分抑えられるというわけだ。
こうした方向性により、2006年あたりから急速にマルチコア/マルチスレッドの方向にCPUアーキテクチャーは進化していった。インテル/AMDともに、2006年には2コア、2007年には4コアの製品を市場投入し、2010年はついに6コア製品が普通に流通するようになってきている。幸いしたのは、これに合わせてOSもまた、マルチコア/マルチスレッドをあまり有効に使えないWindows XPから、マルチコア/マルチスレッドを上手く扱えるWindows 7/Vistaにシフトしつつあり、こうした4/6コア製品であっても、それなりのメリットを享受できるようになったことだ。
とはいえ、この調子で無尽蔵にコアの数を増やしていけるかというと、それも怪しいところである。プロセス的にはもう2世代(22nm/16nm)あたりまでは、現在のCMOSプロセスの延長で何とかなると見られているので、理論上は22nm世代なら最大12コア、16nm世代なら24コアまでいける計算だ。しかし、こんなにコア数を増やしても流石に使い切れないと見られる。ここまで増やすとサーバー向けはともかく、デスクトップ向けではむしろ、OSで管理する側のオーバーヘッドの方が大きくなりそうである。
とはいえ、より高い性能を求める声はまだ絶えておらず、そうした方向性に向けて現在考えられているのが、「CPU+アクセラレーター」という構成である。すでにNVIDIAは「CUDA」というGPUを汎用演算ユニットとして使う方法を提供し、それなりに普及が進んでいる。AMDはもっとドラスティックに、「Fusion」という形でCPUとGPUの統合を目論んでおり、これに向けての第一歩を踏み出そうとしている(関連記事)。
インテルはもう少し汎用的な解を望んでおり、とりあえず今はインフラ整備に力を入れているといったところ。まだ各社に温度差はあるものの、CPUのみで全部を解決するのは無理だと判断しているあたりは、ほぼ同じである。
今回は大雑把にトレンドを御紹介したので、次回からもう少し細かな話をしてゆきたい。
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