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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第65回

CyrixにIBMにRiSE、マイナー系x86ベンダー総ざらえ

2010年08月23日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/)

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RiSEのx86互換CPUロードマップ

RiSEのx86互換CPUロードマップ

後発のRiSE Technologies
SiSに買収されるが、製品自体は今でも続く

 本稿で扱う企業では最後発となる1998年にx86市場へ参入したのが、米RiSE Technologiesである。創業は1993年で、出資者には台湾UMCやAcer、VIAなどが名を連ねていた。1998年末に同社は、「RiSE mP6」を完成させる。

RiSE mP6

RiSE mP6

 mP6は、構造的にはインオーダーのシングルスケーラーCISCで、性能よりも消費電力に重点を置いたものだが、250MHz駆動で8W程度という低消費電力が売りだった(0.18μmプロセスの試作品では4W弱まで下がった)。

 もっとも、トランジスター数が3600万個とかなり多く、ダイサイズは0.25μmで107mm2とやや大きめで、低価格市場向けには少々原価が苦しい感じではあった。だがそれよりも問題は、インテルやAMDに伍してPC向け市場で製品を販売してゆく体力が、同社になかったことだ。

 1999年に開かれた半導体業界のイベント「MicroProcessor Forum」で、同社は2次キャッシュを搭載した「mP6 II」を発表する予定だったが、前日になって発表をキャンセルし、mP6 IIは幻の製品となってしまう。翌年、同社はセットトップボックス向けに製品ブランドを「iDragon」に変更するとともに、後述する「STPC」シリーズのライセンス供給を受けて、商品構成を増やすといった動きを見せた。しかし、最終的に同社は台湾SiSに買収されてしまう。

 この買収の前に、同社はSTマイクロエレクトロニクスとSiSに、それぞれmP6のライセンスを供与していた。ちなみにライセンスフィーはかなり値切られた模様で、少なくとも同社を存続させるには十分ではなかった。このライセンスを受けて、SiSは自社のチップセットと組み合わせたSoC「SiS550/551/552」を開発する。

 SiSはこれをインターネット端末のような組み込み向けとして、精力的に売り込みを図った(関連記事)。しかし、周辺機器にはノウハウを持つSiSもCPUに関しては手付かずだったようだ。結局このシリーズは尻すぼみとなってしまい、2005年あたりに権利を丸ごと台湾DM&Pに売却してしまう。

 DM&Pはこれをそのまま、「Vortex86」としてまず販売する。ついで、FPUを削除したり一部パイプラインの手直しなどを行ない、低消費電力化と性能向上を果たした「Vortex86SX」を2007年に発表。さらに、FPUを追加して、周辺回路を増強した「Vortex86DX」を2008年に、プロセスの微細化で1GHz動作を可能にした「Vortex86MX」を2009年に発表している。

 なお、DM&Pは1ページ目でも触れたように、台湾ALiの互換CPU「ALi M6117」の権利を購入して自社ブランドで販売するなど、組み込み向けのx86に熱心である。今後も引き続き製品ラインを維持していく予定のようだ。


CyrixとRiSEのコアを利用したSTマイクロ

Cyrixおよび互換CPUのロードマップ

Cyrixおよび互換CPUのロードマップ

 最後に、STマイクロエレクトロニクス(以下STマイクロ)のx86互換CPUに触れて終わりとしよう。同社は元々SGSトムソン(伊SGSと仏トムソンの合併企業)という社名であったが、1998年にトムソンが撤退したことで、社名をSTマイクロエレクトロニクスに変更した。かつてはCyrixが5x86以降の生産委託していた企業のひとつだ。

 STマイクロは当時、CyrixのM1SCコアをベースに、自社の周辺回路を組み合わせたものを「STPC」シリーズとして発売していた。1998年には、M1SCそのままの「CP60」コアをベースにした、「STPC Consumer/Client/Industrial」のシリーズが登場した。

 続いて2000年9月には、CP60を倍速駆動にした「CP100」コアを使い、「STPC Atlas/Consumer-II/Elite」というシリーズを発表している。

 さらに同社では、恐らくM1SCの3倍速駆動と思われる「CP140」コアを開発する予定があったが、それとは別に、RiSEからmP6コアのライセンス供与を受ける。ただ、このライセンス料を相当値切った……というか、CP60ベースのSTPC ConsumerをRiSEに供給することで、ライセンス料の一部を相殺した模様だ。

 そこで入手したmP6コアを、「CP250」という名前で組み合わせたのが、2005年に登場した「STPC Vega」である(RiSEのロードマップ図中に掲載)。ロードマップではさらに、「STPC Pictor」を開発するとともに、コアそのものにも手を入れた「CP350」コアを開発する予定があったようだ。

SOC With a 6th-Generation x86 Core:STPC Galaxy

MPF2000で公開された、STマイクロのLuigi Mantellassi氏による「SOC With a 6th-Generation x86 Core:STPC Galaxy」というプレゼンテーションの抜粋。当時の同社のロードマップがわかる

 しかし、STPC Pictorは名前だけで消えて、今ではSTマイクロの半導体ビジネスも、x86以外に注力する方向に移行している。すでにSTPCシリーズは「新規設計には使わないように」という、メンテナンス製品扱いになっているのが現状である。

 こうして改めて見てみると、CyrixのM1SCコアが随分あちこちで使われていたことがよくわかる。現状利用可能なのは、AMDのGeode LX位しか残っていないのが少々残念ではあるが、もう影も形もないCyrixのM1/M2コアに比べれば、はるかにましと言うべきか。

 同じことはRiSEのmP6コアにも言える。省電力のCPUコアは組み込み用途で長く利用されやすいことを、明確に示していると言えるかもしれない。そういえばインテルでも、Pentium Mコアがまだ形を変えつつもSoCで生き残っているあたりも、この傾向を補強すると言えそうだ。

今回のまとめ

・Cyrixのx86互換ビジネスは、1992年にリリースした386互換CPU「Cx486DLC/SLC」から始まる。しばらくはその改良品を投入していたが、1995年の「M1SC」コアでようやくPentium世代に迫る。M1SCコアは生産委託によって各社で使われるようになり、一時期はIBMやSTマイクロもCyrix互換の製品をリリースしていた。

・Cyrixを子会社化していたNational Semiconductorは、M1SCコアに周辺回路を組み込んだ「Media GX」をリリースする。改良版「Geode GXm/GX1」のリリース後に、開発部隊はAMDに買収され、以後のGeodeシリーズはAMDから販売された。しかし現在は廃番となっている。

・独自にx86互換CPUを開発したNexGenは、性能に優れる「Nx586」を1993年にリリース。しかし後継製品「Nx686」の開発中に会社ごとAMDに買収され、Nx686はAMD-K6として世に出ることになる。

・1998年にx86市場に参入したRiSEは、低消費電力に重点を置いた「mP6」をリリースする。しかし後継製品の開発が難航。SiSに買収される。買収後はSiSのブランドでSoCのCPUコアに利用され、現在でも生き残っている。

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