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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第4回

行き場ないのは本当に不安? アニメで描く時代の闇 【前編】

2010年08月21日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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気持ちのいい「たまり場」は、学生サークル

望月 たとえば政やイチ(弥一)がいる、かどわかし屋の「五葉」。あれはおれは個人的に「学生サークル」だと考えていました。

―― 学生サークルですか? かどわかし屋の「五葉」が。

望月 梅のやっている居酒屋に、イチやおたけ、松吉なんかが何となく居心地がよくてたむろっている。なかなかみんなの輪にとけ込めない政之助もいるみたいな。

 ああいうたむろ感というのは、自分自身が学生のころに入っていたアニメのサークルに似ているんですよね。たまり場に行くと誰かしらいて、居心地がよくてという。何かすることもあるけど何もしないことも多いとか。五葉にも、部室にたむろしている中で、時々「かどわかし」というイベントがあるわけじゃないですか。

 彼らがやっている、かどわかしは一応犯罪なので、その善し悪しは置いておいても、あれってどこか、サークルのみんなが8ミリフィルムでアニメを作って、完成試写会をやっているような、それと同じような感覚なのかなという。

 「さらい屋五葉」のメンバーは、かどわかしのプロ集団でも何でもなくて、みんな表向きには別の職業か何かをやっていて、どっちかというとアマチュアですよね。そういう意味でちょっと学生気分っぽいところがある。

―― 伺いたかったのは、「居心地のいい居場所はいかにして作るか」というところもあります。五葉が集っている梅の居酒屋とか、近所の人たちが時折訪ねてきて世話を焼いてくれるような長屋。ああやってみんなで集える場所というのが非常にいいと感じました。居心地のいい居場所というのは、今の時代には作りにくいと思いますか?

望月 学生に関しては、そういうサークル的な場は今もありますよね。

―― でも、卒業したら出て行かなければならない。社会に出ると、突然荒波に放り出されて居場所を失くしてしまうという感じが、今の就職難に陥っているような若い人たちには特にあるのではないかと個人的には感じました。監督は、そういった不安感というのはどのように思いますか。

望月 それは、大人になるってそういうことだから。仕方がないんじゃないですか。だっておれも、学生のときに友達と8ミリでアニメを作っていたのと、プロになってから、監督として今こうやって商業作品を作っているのとでは、やっている作業は同じかもしれないけど、全然違いますよね、やっぱり。

 もう学生気分では作れないじゃないですか。仕事だし、お金が動いているし、責任もあるし。普通にそれはプロという状態だと思うんですけど。

―― 人間、社会に出ると、非常に損得のあるシビアな世界に直面したりしますよね。

望月 まあ、当たり前ですね。

―― 監督は、アニメ業界に社会人として入って、どのようにして自分の居場所を作っていったのですか。

望月 そんな大げさな心がまえは特になかったです。アニメの演出という仕事も、やってみたら、結局、おれにはこれしかできることがなかったなというだけの話で。何か覚悟を決めてこの世界に飛び込んで一人前になってやるぜとか、そんなことは何も考えてなかったです。結構、「やりたいことができればそれでいい」と、緩く生きてきました。

―― 監督がアニメ業界に入ったときは、どんな時代でしたか。

望月 おれが大学をやめてアニメ業界に入った80年代は、今とはまた違う熱気があったと思います。

 我々の年代がティーンエイジャーの頃は、まだアニメが子供のものと思われていた。そこから「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」と大人にも響く作品が登場した。それを見た若者たちが、ある程度大人になったときに、「もっと俺たちの好きなものを作ろう」ということでアニメ業界に大挙して入っていった。

 新しいものを作りたいという以上に、「今までにないものを作ってやろう」みたいな空気がありました。それがちょうど我々アラフィフ(50歳前後)世代ですね。今、その辺の世代に監督やキャラデザイナーの人がすごく多いんですよ。やっぱりそれは、そういうひとつの時代だったからかなという。

 アニメをやるというのがすごく新しい仕事という感覚があったし、「自分でも作れるんじゃないか」という、すごく現実的な感覚があってこの仕事に入ったわけです。それは、その時代ならではの熱気というのも後押ししたんでしょうけれども。

(次のページにつづく)

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