戦争がひとまず停戦した場所を舞台にしたアニメ「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」について、神戸守監督にお話を伺う。この物語のふしぎな魅力、そして画面にこめられた異様なまでの説得力はいったいどこから来ているのか。
「実感」をキーとして話をうかがった第1回(関連記事)につづき、「継承」というキーワードから、このふしぎな作品を生みだしたポイントを読み解いていく。監督がこの作品に込めたものとは、いったい何なのか?
■ソ・ラ・ノ・ヲ・ト
長く続いた戦争により、文明が後退し、人が住める土地も限られた世界。15歳の少女・カナタは、幼少時にトランペットを吹く女性兵士と出会ったことをきっかけに、喇叭手(ラッパ吹き)を志願。ヘルベチア共和国の西側国境沿いの田舎街・セーズの駐留部隊である第1121小隊に配属される――。
―― 「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」では、喇叭(らっぱ)手であるカナタがさまざまなことを体験し、自らも「音」を通して何かを伝えていく話になっていましたね。
神戸 あの世界は今から約250年後という設定なんですね。今の文明が滅びてしまって、世界が再構築された。生き残った人々が街を作っているんだけれども、街のいたるところにかつての文明を思わせる廃墟があるという。
地球のかなりの部分が人が住めない不毛の土地になってしまっていて、もしかしたら人類は滅ぶかもしれないと言われている。そんな世になっても、過去の時代から受け継いでいるものがある。カナタのラッパの音も過去から引き継いでいるもの、ということなんです。
―― 伝える手段として「音」を選んだ理由は?
神戸 音楽って言語を飛び越えて伝わりますよね。ヨーロッパで作られた曲でも、日本まで伝わったり。全世界の人に向けて、いろいろなものの垣根を越えるみたいな感じで。
曲として使った「アメイジング・グレイス」は、いろいろ候補を出した中で、「全世界の人が1回は聴いたことがあるんじゃないか」ということで選んだ覚えがあります。実際にも曲の作者は不明ですが、カナタたちの時代でも、誰がどのようにつくったのかわからない曲として出しました。誰が作ったものかわからないのに伝わっていく。そこが面白いと思いました。
(C) Paradores・Aniplex/第1121小隊
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