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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第4回

行き場ないのは本当に不安? アニメで描く時代の闇 【前編】

2010年08月21日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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「資料? 外へ行って見てこようよ」

―― 「自分でも作れるんじゃないか」ということが「現実的な感覚」としてとらえられた、ということにちょっと驚きました。最初に「政の不安は、今の若者にもある不安」というお話をうかがいましたが、若い世代だけでなく、私のような年代の人間でも、今の社会はなんとなく厳しいように見えて、若い人もそれは飛び込むのが怖いだろうなという感じが個人的にはするんです。今の時代に大勢の人たちが感じている社会に対しての不安、居場所のない感覚について、監督ご自身はどんな理由があると思われますか?

望月 それはわからないです。

 ただ、今のアニメーション作りの現場を見ていて思うのは、「まず飛び込む」ということがないな、とは思います。たとえば、「さらい屋」で着物を着た人が歩くシーンがあると。着物の裾がゆれたりするでしょう。あれは誰にでも描けるものではありません。画力のほかに、観察力とセンスが必要で。

 演出家からでも、アニメーターからでも、「このシーンを描くための資料をください」としょっちゅう言われるんだけど、その辺にふつうにあるものなら、おれなんかは、「ちょっと外に行って見てこようよ」って思うんです。人に全部もらう前に、外に行ってスケッチをしようよ、という。

―― 外に行って見てこよう、ですか。ネットで画像を探すのではないと?

望月 ネットで探すのでも、本で調べるのでももちろんいいんです。だけど、まず外に出て実際のものを見ようよ、と感じます。そうでないと「リアル」を描写するような観察力は養われないんじゃないかなと。今は、その場から動かずにして手に入るものも多いから、自分から意識していないと、感覚がなまける気がします。

―― 感覚がなまける、ですか。それはパソコンの前にいながら情報が簡単に手に入るようになったことの弊害でもあると?

望月 コンピュータの登場で、いいこともいっぱいあるんですけどね。でも、今、アニメーション制作の現場で、コンピュータを使うようになってから特に思うのが、プロセスが一応小ぎれいに全部できてしまうんです。何でも。

 今は映像も、誰でも最初からそれなりのものを作れるようになっている。その分、「面白さの何か」がなくなってしまっている気がするんですよね。8ミリみたいな「コマ撮りをすると絵が動く」ということの実感とか、根本的な楽しさ、そういうことが失われつつあるような気がする。

 道具だって最初から完備されて、ある程度完成されていて、どこにでもある。手に入れる苦労さえないとなってくると、やっぱり感覚がなまけてしまうという気がします。

―― もしかしたら、「コマ撮り」のような身体を使った感覚が、居場所の何かにつながるのでしょうか。

望月 実は今の若い人たちだって、居場所になり得る場所は持っているんじゃないかと。ただ、それが本人に実感できないことのほうが問題の根本だったりして。自分の居場所にするまでの大変さを想像して、心の敷居がすごく高く思えてしまうんじゃないかなと。

 だからあえて、「外へ行って見て来いよ」と。

 おれがいたアニメサークルだって、そこの場には、自分が好きなヤツだけが入ってくるわけじゃなかった。今までの自分とはまるで接点がなかった世界の人間が入ってきたり、自分とウマが合わないヤツも当然いると。だからケンカもたくさんする。後から考えると本当にばかばかしい理由でなんですけれども。

 「五葉」が仲間になっていく過程と、同じですね。やっぱりいつの時代も、居場所作りというのは、外の世界に出て直に物事に触れるような、そういう面倒くささがついて回るんじゃないかなと思ったりします。

(後編につづく)


■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)

 1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。

DVD発売情報

 「さらい屋五葉」第1巻
 発売:2010年7月23日
 収録話:第一話「形ばかりの」、第二話「抱かれたい」
 価格:5775円  初回特典:36P特製小冊子(オノ・ナツメ描き下ろし漫画や秘蔵制作資料を収録)、中澤一登描き下ろし豪華特製BOX、五葉オリジナルビジュアルカード2枚  ※第2巻は2010年8月25日発売!


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