マイナー企業に転落したマイクロソフト
アップルのiPadが発売され、予想を上回る売れ行きで脚光を浴びる中、マイクロソフトは今月初めにKINというスマートフォンを発表した。マイクロソフトがリリースした、iPhoneに対抗する戦略商品……とメディアが騒ぐかと思ったら、ほとんど話題にもならなかった。FacebookやTwitterが使える以外、KINにはアプリケーションもなく、スマートフォンとしては低機能で、携帯電話としては高価だ(KIN TWOは99.9ドル)。何よりもiPhoneのような「クール」さがない。
いつのまにマイクロソフトは、こんなマイナーな会社になってしまったのだろうか。もちろんマイクロソフトはまだ高収益を上げており、その時価総額(約2400億ドル)はアップル(約2100億ドル)を上回っている。しかしマイクロソフトの時価総額が5年前とほとんど変わらないのに対して、アップルの時価総額は2005年には200億ドル足らずだった。それがこの5年でほぼ10倍に伸び、マイクロソフトと肩を並べるようになったのだ。
マイクロソフトが没落した第1の理由は、PCの時代が終わったことだろう。マイクロソフトはPCとともに登場し、大型機の時代を支配したIBMを倒した。世界最大のコンピュータメーカーを、設立されたばかりのベンチャー企業が倒すとは、誰も予想していなかった。それ以来、競争の激しいコンピュータ業界で20年以上もナンバーワン企業だったことも驚異的だ。ビル・ゲイツは天才的な技術者とはいえないが、天才的なビジネスマンだった。
最大の危機は、インターネットが登場してプラットフォームがOSからブラウザに変わるときだった。一時はNetscapeがブラウザで圧倒的なシェアを占めたが、マイクロソフトはInternet ExplorerをWindowsにバンドルしてNetscapeを破った。しかしPCそのものがコモディタイズ(日用品化)して成長商品ではなくなると、それを支配していることにあまり意味はなくなる。
第2の理由は、ITがもはや必需品ではなくなったことだろう。iPodが出たあと、マイクロソフトも似たような携帯音楽プレイヤーであるZuneを発売した。これは音楽ファイルとしては多数派のWindows Media Audioを使い、WindowsベースなのでPCとの連携もスムーズで、今度も先行したアップルを抜くかと思われたが、ほとんど問題にならなかった。
Zuneはハードウェアの性能ではiPodに劣らないのだが、iTunes Storeのような「エコシステム」を構築するのに失敗した。基本的には事務機であるPCと違って、音楽では価格や性能より「クール」さが大事なのだ。

この連載の記事
- 最終回 日本のITはなぜ終わったのか
- 第144回 電波を政治的な取引に使う総務省と民放とNTTドコモ
- 第143回 グーグルを動かしたスマートフォンの「特許バブル」
- 第142回 アナログ放送終了はテレビの終わりの始まり
- 第141回 ソフトバンクは補助金ビジネスではなく電力自由化をめざせ
- 第140回 ビル・ゲイツのねらう原子力のイノベーション
- 第139回 電力産業は「第二のブロードバンド」になるか
- 第138回 原発事故で迷走する政府の情報管理
- 第137回 大震災でわかった旧メディアと新メディアの使い道
- 第136回 拝啓 NHK会長様
- 第135回 新卒一括採用が「ITゼネコン構造」を生む
- この連載の一覧へ