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広告の本質に立ち返るべき時期に来た

「デジタルサイネージビジネス」参入のポイント

2009年09月25日 09時00分更新

文● 松本淳

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求められるデジタルサイネージならではの
クリエイティビティ

島崎昭光氏

博報堂DYメディアパートナーズ メディアコンテンツ・ソリューション局クリエイティブディレクター 島崎昭光氏

 現状のデジタルサイネージのクリエイティブの多くは、インタラクティブコンテンツという範疇でいえば、PCやモバイルのWebコンテンツで行なっていることとあまり変わりがないと言う、博報堂DYメディアパートナーズ メディアコンテンツ・ソリューション局クリエイティブディレクター 島崎昭光氏。彼は、近い将来には屋外ならではのオリジナリティと、それに応えるテクノロジーが求められるようになるだろうと予測する。また、クライアントに提案する際のメディアとしての規模感がまだ不足している点も、課題として挙げる。規模感を増し、出稿システムも整備されることで、既存の屋外広告と同じような媒体提案ができるようになっていくことが求められる。

コンテンツ企業は
メディア企業を志向すべきだ

遠藤諭

アスキー総合研究所 遠藤諭

 人が集まるところに広告を出す、という原則に立ち返れば、コンテンツに関わる企業は、もっとデジタルサイネージを積極活用すべきとアスキー総研の遠藤は語る。テレビの前に人が居る時間が短くなり、その分外に出ている時間が長くなっているのであれば、コンテンツ企業もよりそちらに軸足を移した展開を図ったほうがよいというわけだ。

もっとシンプルな世界であって良いはず

 NTT伊能氏は、デジタルサイネージがメディアになっていくにあたり、必要な要素として最初に挙げたシンクライアント化に加え、既存のアドネットワークに適応できるようなシンプルな広告出稿と配信の仕組みがあって良いはずだと語る。つまり、街中の広告露出場所にメタデータを登録しておき、そこ(Google Adsenceなどと同様に)にマッチングされた広告が自動配信されるシステムの実現はそう難しくないはずであり、その実現のためには、「凝った映像を配信する」「高いシステムを販売する」といったところに拘らずに考えていく必要があると指摘する。

 博報堂DY島崎氏はそれを受けて、山手ビジョンのような接触人数や滞在時間の規模感が明確な媒体はともかくとして、それ以外の場所については、確かにもっとシンプルな仕組みが求められるという認識を示した。

 この論点は、クリエイティブにも影響を与える。伊能氏の行なった実証実験によると、滞留型ではなく、道を歩いていて出会う通行型のデジタルサイネージにおいては、凝った映像よりも、単純な静止画とアニメーションを組み合わせたコンテンツのほうが、認知度が高かったという。デジタルサイネージコンソーシアムの江口氏も、PUSH型のデジタルサイネージにおいては歩いている人をある意味驚かせるような「変化」を演出することの重要性を説いた。TVやネット広告と異なり、広告視聴者自身とその視界から見える風景が動いているデジタルサイネージにおいては、動き続けている広告表現は却って注意を引くことができないのだ。

測定できることが
広告主の望む目的ではない

 スケダチの高広氏は、既存のOOHに対するアドバンテージとして紹介されるデジタルサイネージの効果測定機能について、インターネット広告におけるコンバージョン(転換率)などの「測定可能」である特色が、先に挙げたような広告価値よりも強調されて語られることに懸念を示す。デジタルサイネージの展開には、インターネット広告がもたらした「良い点」をより活かす必要がある。それは、Googleのアドネットワークがそうであるように、広告表示に対するコストをTVや新聞に比べ低廉に押さえ、コストパフォーマンスが非常に良いという方向性である。精密な効果測定に拘るあまり、設備投資費が上がった結果、広告費が上がってしまっては本末転倒というわけだ。

日本が世界で勝てる可能性のある領域

 慶応義塾大学中村教授は、この領域は日本が世界に対してアドバンテージを持つ分野であると断言する。

 デジタルサイネージは、(1)ディスプレイ、(2)ネットワーク、(3)コンテンツの3つの要素を必要とするが、それらをすべて備えているのは日本だけである。LEDディスプレイの国内生産を行ない、ブロードバンド・モバイル環境も整備されている日本は、デジタルサイネージの先進的な取り組みも可能。また、先に挙げた通行型のサイネージと相性のよいアニメのような海外で通用するポップなコンテンツを開発できるのも日本の強みとして挙げられる。

 さらなる進化をしていくうえで、まだいろいろな課題を抱えるデジタルサイネージだが、その立ち上がりに際しては、国内市場だけでなく海外市場もターゲットにしていく必要があり、日本の優位点を活かして展開を行なっていけるか、その動向が注目される。

著者紹介:松本淳

ネットベンチャー・出版社・広告代理店等を経て、現在、東京大学大学院情報学環修士課程在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、デジタル方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース支援活動を行なっている。米PMI認定PMP・デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。


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