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ゼロからはじめるストレージ入門 第3回

選定方法を学んで理解を深めよう

企業向けストレージに必要な条件とは?

2009年09月11日 09時00分更新

文● 吉田尚壮/EMCジャパン株式会社 グローバル・サービス統括本部 テクノロジー・ソリューションズ本部 技術部 テクノロジー・コンサルタント

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ストレージアレイは、低価格で小型のものから大型で高価なものまでさまざまな製品が販売されている。そこで、ストレージに馴染みのないシステム担当者にとっても理解しやすいかたちで、一般的な製品の選定方法から理解を深めるとともに、企業向けのストレージに必要な条件について解説しよう。

一般的な指標とストレージの関係

 ストレージアレイ製品の選定においては、まずストレージに接続するサーバ(または対象となるアプリケーション)の仕様や、必要とするサービスレベルなどを基準として製品を選ぶ方法が一般的である。では、具体的にどのような基準を定めればよいのであろうか。

 基本的には、他のIT機器と同様にシステムの品質を示す指標を利用して、定量的な判断をすべきであろう。ここでは、「信頼性」、「保守性」、「可用性」、「性能」、「拡張性」の5つについて列挙し、ストレージアレイにおける考慮点にも触れながら解説したい。

信頼性(Reliability)

 信頼性は、システムが安定的に連続稼働する能力を示す。故障頻度が低くサービスを連続的に長期間提供できるシステムは、信頼性が高いといえる。また、信頼性はMTBF(Mean Time Between Failure)という値で表現されることもある。MTBFは、「システムの稼働時間÷故障回数」で求められ、システムが最初に故障するまで、および故障してから次の故障までの平均的な連続稼働時間を表わす。

 ストレージアレイにおいては、HDDや各コンポーネント(部品)の故障時にもサービスを継続させる技術やアーキテクチャが、信頼性の向上につながる。以下におもな要素を挙げておこう。

  • RAIDに対応していること
  • ホットスペア(予備HDD)対応していること
  • コンポーネント(コントローラや電源など)が冗長化されていること

 なお、MTBFのような値は公開されていないことが多いため、製品選定時には信頼性向上のための工夫や機能実装について調査と判断が必要である。

保守性(Serviceability)

 保守性は、システム故障時における修復能力を示す。ソフトウェアやハードウェア設計により、システム故障時の修復時間を短縮させる能力や、サポート体制の品質や対応能力なども含まれる。また、保守性はMTTR(Mean Time To Repair)という数値で表現されることもある。MTTRは、「修理(復旧)時間÷故障回数」で求められ、システムが故障してから復旧までに要した平均的な時間を表わす。なお、ストレージアレイの選定においては、信頼性と同様にMTTRのような数値は公開されていないため、保守性を高める機能実装などの調査が必要である。おもなストレージアレイの保守性を高める要素を以下に列挙する。

  • HDDや各部品のホットスワップ(活性挿抜)対応
  • 故障検知と通知機能を保有していること
  • ベンダーの保守体制(当日オンサイト対応など)が充実していること

可用性(Availability)

 可用性は、信頼性と保守性の要素が含まれており、システムが故障などで停止することなく稼働し続ける能力や、ユーザーにとっての有用性を示す。また、可用性は「稼働率」と呼ばれる数値で表現されることもある。稼働率は、「MTBF÷(MTBF+MTTR)」で求められ、ある特定の稼働時間において、必要とされる機能やサービスを維持する割合を表わす。可用性はストレージアレイにおける最も重要な指標であるため、本稿後半で詳しく説明したい。

性能(Performance)

 性能は、ある特定の処理における速度や処理数の観点から処理能力を示す指標である。ストレージアレイにおいては、おもに「スループット」、「レスポンスタイム」などの指標で評価される。なお、スループットは、時間あたりのデータの処理数を示す「IOPS」とネットワーク転送速度を示す「MB/s」の2つ指標で使い分けられている。

 まず、IOPSで示されるスループットを理解するために、データのI/O(入出力)について少し補足しておこう。ストレージアレイにデータを書き込むとき、サーバはデータを「ブロックサイズ」と呼ばれる特定のサイズに分割する。たとえばWindows Serverの場合、下図(図1)に示した通り、データは4KBに分割しているため、1MB(1,024KB)のデータを書き込むだけで256回のI/Oが発生することになる。IOPS(Input/Output Operations per Second)は、1秒間に処理できるI/O数を示す単位で、IOPSの数値が高いほど性能も高いことを意味するのである。

図1 ストレージのI/Oとブロックサイズ

 ストレージアレイを選定する一つの方法として、あらかじめ各サーバのIOPSを計測しておき、そのIOPSを処理できる製品を選定するという手法がある。Windows Serverの場合、パフォーマンスモニターでIOPSが計測できる。Linuxの場合は、iostatコマンドが有効だ。ミッドレンジクラスのストレージアレイであれば、数千から数万IOPSの処理能力を備えているものが一般的である。

 ストレージ製品のカタログなどにIOPS値が掲載されている場合があるが、IOPSは、HDD構成やI/Oのタイプ(読込みと書き込みの比率やランダムまたはシーケンシャルI/O)など条件によって大きく変化するため、その情報を鵜呑みにすることはあまり推奨できない。より確実に選定したい場合は、必要なIOPS値をベンダーに提示して、適切な製品を提案してもらうべきである。

 他の性能指標も紹介しておこう。ネットワーク転送速度で示されるスループットは、サーバとストレージにおける秒間あたりのデータ転送容量をMega BytesまたはMega bitで評価し、それぞれ「MB/s」や「Mbps」などの単位で表現する指標である。この指標は、主にバックアップシステムやストリーミング配信システムなど、データの転送速度が必要とされる環境で利用されている。

 レスポンスタイムは、I/Oあたりの応答時間を示し、通常「ミリ秒(ms)」で表現される。ストレージに対するI/O数が増えてくると、レスポンスタイムが長くなる場合がある。短いレスポンスタイムを必要とするアプリケーション環境においては、この指標が重要となる。ストレージアレイのレスポンスタイムは、実際の運用環境によって大きく変化するため、製品選定時の数値的な基準とすることは難しい。しかし、レスポンスタイムを向上させる機能の実装について調査すれば、判断材料となるだろう。

拡張性(Scalability)

 拡張性は、システムの負荷やユーザーの要求に応じて、柔軟に性能や機能を向上させられる能力を示す。ストレージアレイの拡張性を高める要素としては、おもに以下の項目が挙げられる。企業向けストレージアレイの仕様としては、必須といえる内容である。

  • コントローラのアップグレードまたは増設が可能であること
  • インターフェイスの増設が可能であること

 ストレージアレイは、重要なデータを大量に保存するインフラであるため、簡単に交換できるシステムではない。将来起こりえる性能の不足やサーバ接続数の増加にも対処できるよう、拡張性を事前に配慮しておくことは非常に重要である。

(次ページ、「可用性から考える企業向けストレージの条件とは」に続く)


 

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