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「出版」はどこに行くのか? サイゾー創刊者・小林弘人氏に聞く

2009年07月10日 12時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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次世代の編集者は「アグリゲーター」となるのかもしれない

―― Twitter小説のように、ばらばらになっているウェブ上のコンテンツを「手にとってまとめて読みたい」と思ったとき、電子ブックリーダーの存在が目に入ってきます。

小林 電子ブックリーダーそのものはまだポピュラーではありませんが、今後kindleが大学のテキストを所蔵したり、それを配布する大学が増えることで普及する可能性はさらに広がるでしょう。

 そのようなところから電子テキストを読むという行為に慣れてくれば、将来的には電子ブックリーダーで小説やニュースを読むということが日常的になるかもしれません。1995年頃はウェブでも、このような長いインタビューは読めないという人が多かったわけですから、人間の環境順応力は見くびれません(笑)。

電子ブックリーダー「Kindle」。Amazonが販売する独自形式の電子書籍ファイルを読める


―― 共通のプラットフォームと考えると、リーダー同士でコミュニケーションをとるという方向も出てきそうですね。

iPhone用の電子書籍リーダーアプリ「Stanza」

小林 リーダー同士のコミュニケーションを考えると、そのプラットフォームはiPhoneやグーグルのAndroidのようなスマートフォンも候補に入るでしょう。次代の「書物の器」をめぐるプラットフォーム覇権争いは激化しています。

 現在は液晶パネルのサイズを考えたらKindleの方が可読性は高いと思いますが、今後アップル社がタッチパネル式のNetbookのようなものを出すんじゃないかという話もあります。そこでStanza(iPhone用の電子ブックリーダーアプリ)のようなブックリーダーが使えるとなれば、それは欲しい。

 そのときネットワーク上でリーダー同士がつながると、字義どおり電子化された書籍に「ブックマーク(しおり)」をはさみ、共有する可能性があるでしょうね。コンテンツを同時に共有しながら会話するといった「ライブ読書会」もありえるでしょう。また、コンテンツ発信者もそういったことを念頭にフォーマットや新しいビジネスを設計する可能性も出てくるでしょう。


―― オープンな形で書籍の電子化を進めたのがグーグルのブック検索でした。

小林 まず、討議を重ねてではなく、サービスを先行させた点がグーグルらしいのですが、裁判というかたちで、利害関係者を巻き込んだことは残念な点です。資金力の点、そして集団訴訟ですから、原告の足並みが揃うか否かの問題等を鑑みるとグーグル側が有利でしょう。

 それを見越していたとしたら、とてもイヤな感じですが(笑)、個人的にはやはりグーグルは一民間企業であり、資本原理にさらされる上場企業なわけですから、ルパート・マードック氏の企業と変わりないと言えます。ほぼすべての情報掲載の可否についてまでを占有されるような手法に、多くの著作者は心地良さを感じないのも事実でしょう。

 また、公文書を除いて、創作物については絶版する権利も著者がコントロールできたほうがいいのですが、著者からすれば、これまでの取次や版元といったビジネスの胴元がグーグルに取って変わっただけかもしれませんね。まあ、内心忸怩たる気持ちは抱えつつも、世界に情報を送り届ける流通システムでもあるグーグル様をうまく「Hack」していくしかないでしょう(苦笑)。

Googleブック検索による出版社との「和解契約」。日本の書籍までもが対象となり、出版社・著者は和解に「同意」するかどうかの決断を迫られた


―― グーグルが展開しようとしているコミュニケーションツールに、リアルタイム性の高さが特徴のGoogle Waveがあります。Google Waveが普及したとすれば、グーグルのサービス上で展開されるコンテンツがメディアの中心になっていくと考えられないでしょうか。

小林 いずれにせよ、グーグルが新たな情報プラットフォームであり、新しい取次、書店の役割を担いつつあるわけですから、出版社の存在も変容する可能性はあるでしょうね。

 音楽業界の場合、クリエーターが自らファンドを組成して楽曲をつくり、それを自分のサイトを通じてファンにデリバリーするといったことが一般的になると、レコード会社をスキップする可能性も出てきます。たとえば、最近グーグルは英語版グーグルニュースで執筆者の名前からも記事が検索できるようにしています。これは注目すべき改変です。

 たとえば今度始めるという電子ブック販売は著者が金額を勝手に決められるとアナウンスしていますが、それこそスティーブン・キングや村上春樹のように世界的に著名な著者なら出版社を通して販売する理由がどんどん薄くなるでしょうね。


―― その中で、メディアに関わる人間は何を求められてくるんでしょう。

小林 いまはパッケージメディアではなく、それぞれのメディアの発した各記事がアグリゲーション(集約)される時代です。それがbotによって成されるのなら、人間は人間にしかできないことをやればいい。

 アメリカに「Litmob」という書評サイトがありますが、これは大手が扱わないような詩やインディーズ文学の書評をメインにしています。ただ、字数は短めにネットにあわせたかたちで見せ方を考えているようです。ときにはカルトな人気を誇るインディーズバンドのメンバーに書評させたり、面白い試みを行なっていて、影響力も出てきているようです。

 人間は必ずしも常に能動的ではないし、自身がやれることには限りがあります。そこで、今後は読者のエージェント(代理人)となって情報をアグリゲートしたり、ホテルのコンシェルジェのように知恵と経験で情報を編んだり提供していくことは、より価値を帯びるでしょう。レコメンドやCGMによる書評が増えるほど、松岡正剛さんの読書記などがかえって新鮮に見えてきます。

 よってプロの職能が必要なくなることはありませんが、その提供方法が時代とともに変わっていることは間違いありません。目の前の枠組みに囚われず、テクノロジーを駆使して、自分のナレッジを共有していく方法を模索すべきでしょうね。


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