NECは6月29日、同社の研究機関「中央研究所」の活動に関する説明会を都内の本社で開催した。ここでは、音声認識技術など現在研究中のテーマの解説とデモンストレーションが行なわれた。
年間280億円が研究開発に
説明会は、執行役員で中央研究所長の國尾武光氏による、NECのR&D(Research and Development)体制および中央研究所の解説で始まった。中央研究所はC&Cイノベーション研究所、サービスプラットフォーム研究所など複数の研究所で構成され、NEC全体のR&D費用2800億円の約1割が投入されている。約1000名の技術者/研究者を擁する規模の大きな研究機関だ。
國尾氏によると、製品開発といった「今日」のR&Dをビジネスユニット(事業部門)が担当するのに対し、中央研究所は「将来の事業を創出する革新的なイノベーション」と「現事業を大きく発展させる継続的なイノベーション」の創出を目的。「明日」の研究開発を行なう部門であるという。
研究所の説明に続いて、研究内容のデモンストレーションが行なわれた。ここでは、ネットワークに新たな機能を加えるプログラマブルフロー・スイッチ、半世紀近い開発を経て製品化も行なわれつつ、研究が続けられている技術として音声認識技術を紹介しよう。
NGNの先を目指すプログラマブルフロー
現在のインターネットは、経路制御機能とデータ転送機能を搭載したルータによって構成されている。ところがインターネットはセキュリティや通信品質を考慮して作られていないため、ウイルスの蔓延を引き起こしたり、通信が途絶えることは珍しくない。こうした弱点を克服すべく考えられたのが、最近話題のNGN(Next Generation Network)だ。
NGNではネットワークがセキュリティや品質制御の機能を持つため、通信品質は向上し、セキュリティも確保できる。しかしNGNであっても、ネットワークとして行なえることは、メーカーがルータに搭載した機能に限られる。つまり、「レディーメイドネットワーク」だ。これに対しプログラマブルフロー・スイッチが目指すのは、通信事業者が新サービスを柔軟に実現できる「オーダーメイドネットワーク」となる。
プログラマブルフロー・スイッチ自体が搭載する機能は、データ転送だけ。ネットワークの構築と運営に必要なセキュリティや品質制御、そして経路制御は、別途用意された「制御サーバ」が集中して行なう。
たとえば、これまではある拠点から目的の拠点まで通信を行なう場合、音声であろうと映像であろうと同じ経路を経由していた。この結果、映像によって帯域が圧迫され、音声が途切れるといった状況が生じることがあった。
一方、プログラマブル・フローでは、制御サーバが経路を決定することで、音声はホップ数の少ない経路、映像は帯域に余裕のある経路といった制御が可能になる。制御機能がプログラマブルになるため、柔軟な制御が可能になるという。
会場のデモンストレーションでは、6台のスイッチ(実際は2台のスイッチを分割)で構成されたネットワークを用意。同じ経路を通るファイル転送の影響で画質が低下している動画配信の経路を手動で変更すると画質が向上する様子が披露された。
デモではスムーズな切り替えが行なわれたが、プログラマブルフロー・スイッチは開発中の技術だ。ネットワークのインフラとして使うための原理の確認はできているが、製品化に向けてはまだまだ課題が残る状態とのこと。インターネットは、個々のルータが経路制御を行なうことで、障害に強いネットワークを実現している。この原則をひっくり返した電話の交換機型ともいえるプログラマブルフローが実用化されたとき、インターネットはどう変わるのだろうか。非常に興味深い研究といえるだろう。
(次ページ、「半世紀にわたる技術が投入されたVoiceGraphy」に続く)