最近では、家電でもベンチャー企業がすごくやりやすくなったんですよ──。
そう語るのは、家電ベンチャー「Cerevo」の代表取締役、岩佐琢磨氏。同氏は、過去に松下電器産業(現パナソニック)に勤めて、テレビの「VIERA」やレコーダーの「DIGA」、カメラの「LUMIX」といったブランドでネット家電の商品企画を担当してきた人物だ。インターネット、特に「はてな」コミュニティー界隈の人なら、ブログ「キャズムを超えろ!」の「和蓮和尚」氏といったほうが早いかもしれない。
2007年4月、岩佐氏は独立してCerevoを立ち上げた。社名は、Consumer Electronics(家電)にRevolution(革新)をもたらすという言葉に由来する。東京・秋葉原の裏路地を入ったビルに居を構えたこの会社から、今夏、初めての商品となるネット対応カメラが国内向けに発売される予定だ。
IT業界にベンチャー企業は数あれど、家電のジャンルではほとんど類を見ない。国内ではデザイン家電を世に浸透させた「amadana」ブランドを展開するリアル・フリートが、海外ではガジェットマニアの心を捉えた多機能デバイス「chumby」のチャンビー・インダストリーズが有名どころだろうか(関連記事)。
いずれも大手家電メーカーがなかなか手を出しにくいジャンルを突いてきた企業だが、それではCerevoはどんなユニークな製品を作っているのだろうか。
「カバン入れっぱ」でOK 共有重視のカメラ
Cerevoのネット対応カメラは、薄くて小さいポケットに入る小型のデザインになるという。500万画素のCMOSセンサーを搭載し、静止画を撮ってmicroSDカードに保存することができる。
と、ここだけ聞くとちょっと古いコンパクトデジカメのような印象を受けてしまうかもしれないが、競合と決定的に違うのは、写真を勝手にアップロードしてくれるという点。
カメラにIEEE 802.11b/gの無線LANモジュールを内蔵し、家に帰ってきて無線LAN圏内に入れば、カバンから取り出さずに写真をネット上に転送できるという使い勝手を実現しているのだ。
「無線で写真を転送というと、Eye-Fiカード(関連記事)もありますが、あれはカバンからカメラを出して電源を入れると同期が始まる。ニコンさんにも、一部、有線/無線LANを内蔵するカメラがあるが、これも同期の指示が必要。でも、みんなそうした操作すら面倒だから写真を放置するんじゃないだろうか」(岩佐氏)
Cerevoが解決したいのは「写真のシェアもれ」だ。例えば、旅行に友達同士で行った際、カメラ持っている人に撮影を頼んだのに、いつまでたっても写真が送られてこない。いつくれるのか聞くのも気が引けるし……というのは経験したことがある人も多いだろう(筆者も耳が痛い)。
だから新商品のカメラでは、カメラの電源を入れなくても、登録した無線LAN圏内に入るだけで写真を勝手にアップロードしてくれるようにした。
「きれいに撮れるけど送るのが面倒な写真と、それなりにしか撮れないけどきっちりシェアできる写真。どちらも需要があると思うけど、ニーズが高いのは後者のほうだろう。そのマーケットを狙っている」(岩佐氏)
写真は同社のウェブサービスに転送される。カメラの購入者は、「普通に使う分には十分な」(岩佐氏)ウェブスペースが無償でもらえるそうだ。無線LAN経由で写真のアップロードが完了すると、ユーザーの元にメールが届き、パソコンやiPhoneを含むケータイなどからアクセスして写真をチェックすることになる。
その際、ウェブサービス上で画像の回転やモノクロ化、コントラストの強調、トリミングといった編集作業が可能だ。また、同社のウェブサービスから、FlickrやTwitter、フォト蔵、Picasaウェブアルバムといった他社のウェブサービスにワンクリックで投稿することもできる。
「いったん自社サーバーにアップロードするようにしたのは、みなさんTPOで送る写真を使い分けているからです。ヒアリングしてみると、撮った写真を全部mixiやFlickrなどにアップロードしている人はあまりいない。例えば、友達の顔が写っているのは除くという感じで、全部あがっちゃうのは抵抗があるみたいです」(岩佐氏)
一応、撮った写真をすべて他社サービスに転送するオプションも用意するという。価格は普及価格帯のデジカメと同じ1万5000円から3万円くらいで、Amazon.co.jpや楽天などのオンライン限定で販売する予定だ。
「あとは世にあるデジカメと比べて、レスポンスが速いのも特徴ですよ。実はもうひとつネット接続を生かした機能も用意しているけど、それは発売直前までの秘密です」(岩佐氏)