戦艦大和で、KOFで! 3D CG作成の“インターオペラビリティー”を実践した現役クリエイターが“3Dワークフローソリューション”をレクチャー!!――“Autodesk 3D Workflow Solution Seminar”レポート
2006年05月29日 08時43分更新
オートデスク(株)は19日、メディア&エンターテインメントディビジョンが担当する同社3Dワークフローソリューションを紹介するクリエイター向けセミナー“Autodesk 3D Workflow Solution Seminar”を開催した。このセミナーは米オートデスク(Autodesk)社がカナダのエイリアスシステムズ(Alias Systems)社の買収後、日本では最初の大きなイベントと言える。
セミナーでは、両社の合併によって3D CGカテゴリーにおいて名実共トップに押し上げた『Autodesk 3ds Max』『Autodesk Maya』『Autodesk MotionBuilder』の3製品、ならびに製品間のインターオペラビリティー(相互運用性)を実現する最新技術を紹介するとともに、各製品を活用した最新事例を紹介する内容となっていた。事例紹介では、2005年秋に大ヒットを記録した映画“男たちの大和 YAMATO”の制作に携わった(株)ポリゴン・ピクチュアズ、プレイステーション 2用ホラーゲーム『SIREN2(サイレン・ツー)』を制作したソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(SCEJ、(株)ソニー・コンピュータエンタテインメントのディビジョンカンパニー)について、制作に携わったゲストスピーカーの講演も行なわれた。
オートデスク株式会社副社長のアレックス・ケリー氏 |
冒頭、旧エイリアスシステムズ(株)の代表取締役で現在はオートデスク日本法人の副社長を務めるアレックス・ケリー(Alex Kelly)氏が挨拶に立ち、続いて米オートデスクのメディア&エンターテインメントディビジョン ワールドワイドセールスバイスプレジデントのデイブ・ウォーリー(Dave Wharry)氏が、エンタテインメント・ビジネスの現状について分析し、制作側に求められているイノベーション(変革)について説明した(セミナーの前日に行なった単独インタビューはこちらの記事を参照された)。
米オートデスクのメディア&エンタテインメントディビジョン ワールドワイドセールスバイスプレジデントのデイブ・ウォーリー氏 |
最初にウォーリー氏は、「デザインビジュアライゼーションの市場規模は、40億ドル(約4600億円)に成長しており、エンタテインメント市場は伸びていると言えます。映画市場は北米以外でも成長が予想されており、テレビはHDTVの導入でさらに伸びています。ゲームは次世代機の導入で、2005年に270億ドル(約3兆1050億円)だった市場が2009年には500億ドル(約5兆7500億円)に達すると見られています」と語った。
さらに「デジタルエンタテインメントのブームが到来しており、コンテンツデザインの重要性が増加しています。業界の推進力となる迫力あるコンテンツの制作が求められています。そこでは制作プロセスが複雑化しています」とし、次のように具体例を示した。
エンタテインメント市場は右肩あがりだと強調 | ゲームキャラクターのポリゴン数は年々極度に増加している |
「例えば“映画”。まもなく(日本で)公開になる『M:I:3(ミッションインポッシブル3)』は、大型スクリーンだけではなく、ゲームのコンソールやケータイ(携帯電話機)でも映像が見られるようになり、着メロも出てきます。このようにそれぞれに映像を用意する必要が出てくるのです。ゲームもますます複雑化しています。(ファーストパーソンビュー・シューティングゲームの)『Unreal Tounament』のキャラクターを例に取ってみると、1999年には560ポリゴンで描かれていたものが2002年の続編では2500ポリゴンになり、 2005年の最新作は200万ポリゴンになっています。Xbox 360やプレイステーション 3などの次世代ゲーム機の登場で、ますますHDコンテンツの要求が高くなっているのです」と語った。
最初にウォーリー氏は、「デザインビジュアライゼーションの市場規模は、40億ドル(約4600億円)に成長しており、エンタテインメント市場は伸びていると言えます。映画市場は北米以外でも成長が予想されており、テレビはHDTVの導入でさらに伸びています。ゲームは次世代機の導入で、2005年に270億ドル(約3兆1050億円)だった市場が2009年には500億ドル(約5兆7500億円)に達すると見られています」と語った。
エイリアス製品を得て、ロゴも一新されたオートデスクの3Dアニメーション製品。上から『Autodesk Maya』、『Autodesk 3ds Max』、『Autodesk MotionBuilder』、『Autodesk Combusion』、『Autodesk Cleaner』 |
次に、同社が提供する“3Dワークフロー”について、米オートデスクの3Dプロダクトマネージメント シニア・ディレクターのミッシェル・ベズナー(Michel Besner)氏が3Dアニメーション製品の中心となる3ds Max/Maya/MotionBuilderなど最新版の紹介を交えて説明した。
FBXで3ds Max、Maya、MotionBuilderのインターオペラビリティーが向上すると説明 |
3Dアニメーション製品のビジョン |
ベスナー氏は、同社の3Dアニメーション製品が“これまでのロードマップに沿って製品開発が行なわれること”を明言した。また、複数の3D CGツールメーカーをまたぐファイルフォーマット変換ソリューション『Autodesk FBX』(以下FBX)を活用して、MotionBuilderを介し、Mayaと3ds Maxとのインターオペラビリティーを実現する仕組みを示すとともに、3Dアニメーション製品のビジョンを説明した。FBXは無償のデータ交換用ツールならびにプラグインを提供し、主要な3Dソフトウェアとの相互運用性を実現するツールで、MotionBuilderはこのFBXをネイティブフォーマットとして採用している。主要なファイルフォーマットに対応しているMotionBuilderを介することで、FBXを通じてMayaと3ds Maxのデータをどちらのアプリケーションでも扱えるようにするというものだ。
3ds MaxとMayaの異なるデータが…… | MotionBuilderに取り込まれて、FBXでデータ変換することで…… | 3ds Max/Maya/MotionBuilderのいずれのアプリケーションでも同じ映像が再生できる、というデモを行なった |
引き続き、このFBXによるソリューションを、オートデスク日本法人の各製品担当チームがデモンストレーションを行なった。Mayaと3ds Maxでそれぞれ作成したキャラクターをMotionBuilderで変換し、Maya/3ds Max/MotionBuilderの3製品で同時にまったく同じ映像が再生できることを示した。
ポリゴン・ピクチュアズの代表取締役の塩田周三氏 |
セミナーの後半は、実際にAutodesk製品群を使って映像制作を行なっているスタジオのゲストスピーカーが講演を行なった。最初に登場したのは3D CGスタジオの老舗、ポリゴン・ピクチュアズの代表取締役の塩田周三氏が、映画”男たちの大和 YAMATO”とアクションゲーム『KOF MAXIMUM IMPACT 2』のオープニング&エンディングムービーの制作に関して紹介し、同社のCG制作の取り組みについて語った。
大ヒットした“男たちの大和 YAMATO”は今年8月にDVD化されるとのこと | 歴史上の実在した建造物だけにリアリティーが強く求められた |
“男たちの大和 YAMATO”では21カットを担当し、戦艦大和のほかに戦艦5隻、魚雷などを制作した。制作期間は2005年1月~11月の10ヵ月で、延べ10名が制作に携わった。戦艦大和のCG制作について、塩田氏は「(ポリゴン・ピクチュアズは)バージョン1からのMayaユーザーで、CG大和のモデリングはMayaで制作しました。とにかく細かく作るための力仕事で、いかにリアリティーを持たせるかが大変でした。戦艦大和の制作は、まず松野正樹氏が制作した“Shade版の大和”をリファレンスとして、1/17.5スケールの艦橋、呉に設置された1/10スケール、1/35スケールなどのリアルモデル、さらに呉市海事歴史科学館図録と、さまざまな“大和”と整合性を取らなければなりませんでした。とても時間のかかるプロセスで、モデリングだけで4ヵ月かかりました」と語った。
海の背景にBoujouを使うのはチャレンジングだったという |
実写との合成では、英2d3社のトラッキングソフト『Boujou(ブージュウ)』を使って、空撮時のカメラと船の位置をトラッキングし、Mayaでカメラ位置を微調整して、合成素材を“Locator”機能で配置した。さらに『Adobe AfterEffects』でMayaのファイルをインポートしてカメラと素材の位置情報を取得し、実写素材とペアレント(関連づけ)した。塩田氏は「合計21カットのほとんどが力技で、合成アイテム数が35アイテムと多かったにもかかわらず、Mayaを始めとしたアプリケーションの組み合わせで2週間という短期間で作業が済みました。対象物の少ない海の映像にBoujouを使うのはかなりチャレンジで、そのためMayaに取り込んだ後のカメラの微調整に時間がかかってしまいました」と語った。
人気作品の制作に携わるのは、相当のプレッシャーがあるという |
『KOF MAXIMUM IMPACT2』は、(株)SNKプレイモアの人気ゲームで4月27日に発売されたばかりの新作アクションゲーム。ポリゴン・ピクチュアズでは、オープニングとエンディングのおよそ7分のムービー制作を担当した。制作期間は2005年5月~12月の7ヵ月で、延べ35人(平均7人)で制作にあたった。
KOFの制作にはメインキャラクターだけで16体とキャラクターの数が多く、3ヵ月半から4ヵ月の期間を必要とし、背景には5ヵ月を要した。塩田氏は、「これにはモデル・テンプレートを活用することで対応しました。セットアップデータを共有し、UV情報を変えずにテンプレートとしてキャラクターをセットアップすることで、期間が短縮できました。人気のある作品だけにクライアントのチェックも厳しく、キャラクター造形には気を使いました。こういう場合、セットアップが済んでから問題が見つかることもあるので、今回の方法でセットアップ前にチェックすることができました」と語った。
メインキャラだけで16体! | モデルテンプレートで異なるキャラも容易にセットアップできる |
このようにリファレンスをきわめて重視するワークフローは、ある人は腕の動きを、ある人は髪をシミュレートして、と各部門の担当者がいることで効率的な作業が実現できる。これは完全分業が確立しているからこと可能なのであり、アセットマネージメント(過去に制作した資産の管理・再活用)やクオリティーコントロールの面から見て、古くからの制作体制(ひとりの技術に秀でた職人がこつこつ作り上げる手法)が残る日本では、これからの課題と言える。
最後に塩田氏は、ポリゴン・ピクチュアズの当面の活動についても紹介した。ポリゴン・ピクチュアズの創設者である河原敏文氏が“オリジナルにこだわった”ことを前置きしつつ、「これまではオリジナルだけでは生き残れない時代でしたが、このところようやく元の流れ(オリジナルの制作)に戻れるようになってきました。海外とのコラボレーションでいくつかのオリジナル制作のプロジェクトが本格化しています」と切り出して、次の制作プロジェクトを紹介した。
- 米カートゥーン ネットワーク(Cartoon Network)社とのオリジナル“30分TVシリーズ”の共同開発
- 米ニコロデオン(Nickelodeon)社とのオリジナル7分ショート“Boneheads”制作
- 同じくNickelodeonとの“アキハバラ@DEEP”(原作:石田衣良氏)の30分TVシリーズ化共同開発
- 米国最大手アニメーションスタジオとの3D CGTVシリーズ制作(2007年7月まで)
- 世界配給のフルCG映画制作に参加(2008年2月より)
ソニー・コンピュータエンタテインメントの制作2部アートディレクション担当の高橋 功氏 | 同じくモーション担当のムーア氏 |
続いて人気ホラーゲームの第2弾『SIREN2』を制作したソニー・コンピュータエンタテインメントから、同作品を制作した制作2部アートディレクション担当の高橋 功氏とモーション担当のゲビン・ムーア(Gavin Moore)氏が講演を行なった。
役者さんの顔のアップや全身をデジタルカメラで撮影する | 取り込んだ役者さんのさまざまな表情を元に作成する |
高橋氏は、「SIRENの、リアリティーのある恐怖を表現した世界観の構築するために、モデルとなった島を実際にロケハンし、背景制作に活用するなど、実写にこだわって制作しました。キャラクターの制作にも俳優さんを起用し、デジタルカメラで表情を撮影して、その静止画をテクスチャーに使って形成しました」と語る。この実写を活用しながら、ローポリゴン&低解像度で人間の質感や表情を表現する手法は前作で確立され、3ds Maxを活用して制作が進められた。
この身長差、体格差で95%のモーションを共有している |
今回はこれにMotion Builderを導入し、作業全体の効率化を図った。ムーア氏は「(Motion Builderによる効率化のポイントの)ひとつは“リターゲット機能”です。異なるキャラクターをリターゲット機能で95%のモーションを共有しています。残りを“歩く”、“走る”などの動きを手付けするだけです」と説明。例えば、まったく体格が異なる自衛官のキャラクター2体の場合は、それぞれの手に持たせるものを変えるだけで(ひとりは斧、もうひとりはバットという具合に)できるわけだ。Motion Builderの導入で質・量ともに前作を超えることができたとしている。
“うさぎのしっぽ”。お尻から離れてしまった自分のしっぽを追いかけ回すというコミカルな作品 | 150万円の副賞に驚きを隠せない河野さん |
盛り沢山の同イベントでは、学生を対象とした“MASC(Maya Animation Student Competition) 2006”のグランプリも発表された。グランプリを獲得したのは、デジタルハリウッド東京校のCG・映像クリエイター専攻(応募時)の河野大輔氏の作品“うさぎのしっぽ”。副賞として日本ヒューレット・パッカード(株)から“デスクトップパソコン”、オートデスクからは『Maya Unlimted』の総額150万円相当という、司会者曰く「すぐに独立できるセット」が贈られた。河野氏は「受賞にも驚いていますが、それ以上に副賞(の総額150万円という豪華さ)に驚いています」と緊張ぎみに語った。
ゲーム関係者や現役のクリエイター、学生など日本のコンテンツビジネスを担う才能が集結した |
同イベントを通じて、現在のCG業界を端的に著したことがあった。それはポリゴン・ピクチュアズの塩田氏、ソニー・コンピュータエンタテインメントの高橋氏がともに、プレゼンテーションの最後にCGデザイナーの募集を行なったことだ。塩田氏は「まさに今、CG業界はプチバブル状態に突入していまして、クリエイターが何人いても足りない状況なのです」と業界の現状を切実に語った。