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【特別企画】「真の敵が現われている。自由を守るために行動しよう」─Richard Stallman氏が立教大学で講演

2003年05月01日 23時11分更新

文● 編集部

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自由なソフトウェアとコピーレフトは違う

Stallman氏は、自由なソフトウェアとコピーレフトは異なるものであると説明する。「コンピュータはOSなしでは動かない。80年代にはさまざまなプログラムを書いて、自由なソフトウェアでコンピュータを動かせるようにしようと考えたんだ。でも、すべてを1人で作るととてつもない時間がかかる。だから、X Window Systemのような自由なソフトウェアを利用して、作業を減らすことができた」。

GNU GPLではないライセンスに基づき配布されているX Window Systemだが、Stallman氏はこれも自由なソフトウェアであるという。違いはコピーレフトであるかどうかだ。「MITのX Window Systemは自由でも、UNIXのベンダーが自由でない独自のX Window SystemをNDAに基づいて配布し始めた。X Window Systemはコピーレフトではなかった。コピーレフトのライセンスであるGNU GPLは、法的には著作権(コピーライト)があるが、改変したあとも同じライセンスで配布しなければならない。ソフトウェアと自由が一体になって配布される仕組みになっているんだ」。

このようなライセンスの違いについては「MITの開発者は自由を広めることよりも、多くの人に利用され成功することに興味があったからだろう。GNUはユーザーの自由を守ることが目的なんだ」という考えを示した。

91年にLinuxカーネルが公開されたことについては「我々は最初、Linuxのことは知らなかった」と当時の状況を語った。「多くの開発者の努力で、Linux上で動く自由なソフトウェアはすでにたくさんあった。それはGNUのシステムなんだ。しかし人々は、Linuxにほかのソフトを追加したと誤解している。歴史的には逆の順番だ。私は人々にGNUの考えを知ってもらいたいし、そのためにGNU/Linuxと呼ぶべきだと考えている」と、Linuxが広まる一方でGNUの理念が広まらない問題を主張した。

また、Linus Tovalds氏については、「Linuxのおかげで、使いやすいシステムを作るというプロジェクトは完成したが、自由という理念は忘れられてしまったようだ。Linusは隣人と分かち合えないのは間違いであるとは考えていない。私は単純に楽しみたかったのではなく、自由を広めたかったんだ」と、GNUプロジェクトと見解が異なっていることを指摘した。

自由を広めるのはこれから

Stallman氏はその後、米国を中心とする知的財産の保護に向けた取り組みについて言及した。

「自由を広めるのはこれから。何億ものコンピュータユーザーは自由でないソフトを使っている。自由を広めていかないといけない。でも、自由の前には怖い敵がいる」。

Stallman氏が挙げる敵の1つは、米国のDMCA(The Digital Millennium Copyright Act)であり、もう1つは特許法だ。これらの法律のせいで、自由なソフトウェアを開発することが困難になってしまっているという。「特に特許については、アイディアに対しても認めさせる動きがある。仮にこれが認められてしまうとすれば、自由なソフトウェアを開発することは、まるで地雷を踏みにいくようなものになる」と、特許の問題点を指摘。日本の動向についても「米国企業が特許で儲けているから、負けないようにたくさんの特許をとろうという動きがあるが、日本企業の方々にはアメリカで特許をとって日本では特許をとらないでほしい。そうすれば米国企業の特許に対抗できるし、日本でのソフトウェア開発は自由に行なえるはずだ」と、過剰な知的財産保護に対抗する策を提示した。

また、米Microsoftの動向については「米国では、Microsoftが“.NET”のアイディアに関する基本的な特許をとろうとしている。もしこれが実現したら、Microsoftはデータを囲い込むことが可能になる。誰もMicrosoftのファイルを読み込めるプログラムを開発できなくなってしまうわけだ。ソフトウェアには特許を認めないように働きかけなければならない。ヨーロッパでも、ソフトウェアに特許を認めさせないようにする動きがある」と語った。

米国の業界団体“Trusted Computing Platform Alliance”が提唱している、ハード/ソフトを組み合わせたセキュリティ技術“Trusted Computing”についても「本当は“裏切りのコンピューティング”かもしれない。ユーザーの意志ではなく開発者の意志を尊重するというのは、裏切り行為だ。DRM(Digital Rights Management、デジタル著作権管理)は、著作権という権利ではなく、利用者に対する制約にすぎない。仮にWordファイルに適用されたら、Wordファイルを読める自由なソフトウェアを作れなくなってしまうんだ」と述べている。

「こういった動きを止めるためには、人を集めて働きかける必要がある。自分の自由のために戦わないと負けてしまう。今は真の敵が来ているといってもいいくらいなんだ」。


大学での講演ということもあってか、自由なソフトウェアに関する話題だけでなく、政治的、社会的な話題まで幅広く自身の意見を述べたStallman氏。話の最後にはあらためて「自由なソフトウェアを広めてほしい。LinuxシステムをGNU/Linuxと呼んでほしい」と参加者に呼びかけていた。

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