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『OSCARアライアンス キックオフセミナ』レポート

2002年10月10日 00時00分更新

文● 編集部

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OSCARアライアンスは10月4日、「エンタープライズLinuxによる情報化投資削減」をテーマにしたキックオフセミナーを開催した。

OSCARアライアンスは、企業情報システムをターゲットにオープンソースソフトウェアの採用を推進することを目的に設立された団体。オープンソースの普及啓蒙活動や、基幹系アプリケーションのLinux対応促進、オープンソース活用を目指す企業へのアドバイスなどを行なう。具体的には、今回のようなセミナーを行なうほか、9月末に公開されたオープンソースの外食産業向け座席予約システム『GARAGARADOA』の普及、啓蒙活動などを行なっている。

ビジネスLinuxの現状

キックオフセミナーではまず、OSCARアライアンス会長の堀内英紀氏が「Linuxを中心に企業が結集し、第三勢力として活躍できるようになりたい」と挨拶した。

OSCARアライアンス会長 堀内英紀氏OSCARアライアンス会長 堀内英紀氏

堀内氏によると、企業におけるオープンソースの採用は、日本に比べると米国は4年程度進んでいるといい、セミナーでの発表も米Amazonや米Morgan Stanleyなど米国企業の事例が中心となった。

最初に講演を行なった(株)日経BP 主席編集委員の北川賢一氏によると、米国では実際にSI企業の多くがLinuxに期待を寄せており、昨年後半には大企業へも急速に普及するようになったという。

(株)日経BP 主席編集委員 北川賢一氏(株)日経BP 主席編集委員 北川賢一氏

日本でも、Linuxのメディア露出が1998年頃から急速に増加し、話題に上ることが多くなっているが、実際にはなかなかビジネスの世界には浸透していないという。この理由について北川氏は、ビジネス用途での検証や実証が不足していることや、オープンソースビジネスが不透明なため、「Linuxビジネスをしている企業がきちんとやっていけるのかどうかを顧客が見ている段階」であることを説明した。

今後のLinux導入モデルとしては、米IBMが開始した『Linuxバーチャル・サービス』のように、コンピューティングリソースの利用量に応じて課金するシステムを紹介。自前で管理する必要がなくなるため、TCOを削減することが可能になるモデルだ。北川氏によると、今後はこのような「コンピューティング・ユーティリティモデル」の市場が拡大することになるようだ。また、最近の傾向として、ISV、IHVがそれぞれに製品とサポートを提供するのではなく、サポートベンダーがISV、IHVと再販契約を結び、ワンストップでシステム導入が可能になっていることを指摘している。

実際の導入例:AmazonとMorgan Stanley

米AmazonのLinuxシステムを構築した、米Hewlett Packard(以下、HP)のWorldwide Linux marketing DirectorであるJudy O. Chavis氏は、HPのLinux製品戦略と米Amazonのシステム導入事例を紹介した。

米Hewlett Packard Worldwide Linux marketing Director Judy O. Chavis氏米Hewlett Packard Worldwide Linux marketing Director Judy O. Chavis氏

HPは、5月に米Compaq Computerと合併し、すでに今後の製品ラインナップについても発表している。今後の製品は、サーバ、ワークステーション、デスクトップPC、ストレージ、ソフトウェアに至るまですべてLinuxに対応したものになるといい、これによってHPはLinuxマーケットで最大のシェアを持つベンダーになるという。

米AmazonのWebシステムは、現在Linuxベースの『HP 9000』クラスタで構成されているという。1999年にLinuxシステムを導入するまでは、Tru64 UNIXとSolarisを利用したUNIXサーバとOracleデータベース、BEAのアプリケーションサーバで構築されており、システム関係の経費に7100万ドルを要していた。Linuxを導入したのは、以下のような理由に基づいた判断だったという。

  • プロプライエタリなUNIXへの依存から脱却できる
  • 大学ではLinuxを利用した開発を中心に教育しているため、人材が豊富に供給される
  • オープンソースのアプリケーションが豊富にある
  • IA-32のハードウェアがUNIXマシンに比べてTCOが低い
  • ライセンスコストを低減できる

Linuxの導入により、HPのオンサイトサポートを利用しながらも1700万ドルのコスト削減が可能になったほか、今後の拡張にも柔軟に対応することが可能になったという。HPでは今後も、ISVとのアライアンスなどを通じたワンストップサービスを提供するとしている。

引き続き、モルガン・スタンレー証券会社 アジアCIO Managing DirectorであるJames McGill氏が、同社のLinux戦略について具体的に説明した。

モルガン・スタンレー証券会社 アジアCIO Managing Director James McGill氏モルガン・スタンレー証券会社 アジアCIO Managing Director James McGill氏

モルガン・スタンレーは証券、資産運用、クレジットサービスなどを提供する金融サービス企業。同社のシステムは1日あたり100万トランザクションを処理しており、150カ国以上で50以上の通貨を扱わなければならない。また、各証券商品はそれぞれ異なった事業となっており、システムに対するニーズも異なるため、単一のシステムベンダーがすべてに対応することができないという。そのため、同社のシステムは個別のISVやIHVから調達したり、自社開発で用意しているそうだ。

同社がLinuxベースのシステムを導入したのは2001年後半。最初はオークションの価格付けを行なうアプリケーションの動作プラットフォームとしてLinuxを採用した。現在はシステム全体の10%程度にLinuxが採用されているという。残りの部分は、数多くあるデスクトップ端末にWindows、バックエンドシステムはメインフレーム上で構築されているという。また、UNIXベースのシステムも多く残っており、今後はUNIXの部分をすべてLinuxに置換することを考えているという。

Linuxサーバ上で動作するアプリケーションはCORBAで実装されているという。今後はXMLや.NETといった技術についても検証するようだ。また、EJBのアプリケーションサーバは重すぎるといい、現在のところ利用するつもりはないそうだ。

McGill氏はLinux導入にあたっての問題点として以下のようなものを挙げている。

  • オープンソースであっても、サポート部分などでベンダーリスクが残る。
  • ツールが不足している。本番環境で利用できるモニタリング、管理ツールがない。
  • サードパーティのデバイスドライバが不足している。
  • スケーラビリティがない。大規模なクラスタを構築するといったアプローチには利用できない

それでも、高可用性が求められる部分や大規模クラスタ以外の部分にLinuxを採用したことで、UNIXシステムの10倍から30倍という価格性能比のシステムを利用している。

エンタープライズLinuxの実装:Red Hatの場合

米Red HatのCTOであるMichael Tieman氏は、『Red Hat Linux』製品に実装されたエンタープライズ向けの機能や、今後の製品ロードマップを紹介した。

米Red Hat CTO Michael Tieman氏米Red Hat CTO Michael Tieman氏。“Red Hat”をかぶって登場した。

現在販売されている『Red Hat Linux Advanced Server 2.1』には、以下のようなエンタープライズ向けの機能が搭載されている。

  • 非同期I/O
  • SCSIレイヤのロック改善
  • O(1)スケジューラ

非同期I/Oは、複数のI/O操作を平行して処理することを可能にするもの。これにより、データベースなどのI/O操作が多いミドルウェアを使用する際にパフォーマンスを向上させることが可能になる。『Red Hat Linux Advanced Server 2.1』のカーネルにはこのパッチが適用されているという。今後はネットワークソケット上のI/Oについてもサポートする予定だという。

SCSIレイヤのI/Oロックについては、これまでの実装と比べてロック粒度が細かくなっているという。具体的には、これまですべてのSCSIデバイスは単一のロックで制御されていたが、『Red Hat Linux Advanced Server 2.1』のカーネルでは、各SCSIコントローラ単位でロックを制御することが可能になっている。これにより、複数のSCSIコントローラを使用しているマシンでの性能が向上している。

O(1)スケジューラは、SMPシステムの性能を改善するスケジューラ。これまでのシステムでは、単一のランキューにすべてのタスクが並べられて順番に処理していたが、O(1)スケジューラではCPUごとにキューを持つことが可能になり、ロック競合を減らすことが可能になっている。

製品の開発は、これまでコミュニティの開発スケジュールに連動し、6カ月に一度の製品リリースを行なっていた。しかし、Advanced Serverに関しては、エンタープライズユーザーをターゲットとするため、ISVの対応が可能になるよう12カ月から18カ月に一度のリリースサイクルに変更したという。『Red Hat Linux Advanced Server 3.0』のリリースは2003年の第2四半期頃になるそうだ。なお、一般ユーザー向けの『Red Hat Linux』は今後も6カ月に1度のリリースサイクルが守られる。そのため、『Red Hat Linux 8.x』のリリースも2003年第2四半期になるそうだ。


Linuxカーネルなどオープンソースソフトウェアの開発においては、エンタープライズシステムでも利用できるように可用性が強化されつつある。今後はソフトウェア部分の改善だけでなく、マーケットの信頼を獲得できるような、製品やサポートを供給するシステムの確立がさらに重要になるといえよう。OSCARアライアンスの活動が、マーケットにどのように訴求してゆくのか注目したい。

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