海洋科学技術センターと日本電気(株)(NEC)は14日、地球シミュレータセンター(横浜市)にある世界最速のスーパーコンピューター“地球シミュレータ”の報道関係者向け見学会を実施した。
地球シミュレータは、コンピューター上に“仮想地球”を作り出し、地球規模の気候変動や地層/地殻変動メカニズムなどをシミュレーションで解明するためのベクトル型並列スーパーコンピューター。NECがコンピューターの基本設計を1998年1月に受注、2002年3月8日にセンターへの本体納入が完了し、3月11日に運用開始となった。
世界最速のベクトル型並列スーパーコンピューター“地球シミュレータ”が設置されている地球シミュレータセンターの地球シミュレータ棟 |
地球シミュレータセンターは海洋科学技術センター横浜研究所の一角にある |
“地球シミュレータ”。スパコンがずらりと並ぶ様子は圧巻 |
地球シミュレータは、8台のスーパーコンピューターからなる計算ノードを高速ネットワークで640台つないだもので、総プロセッサー数は5120個。主記憶容量は10TB(テラバイト)。ピーク性能は40TFLOPS(テラフロップス)、現時点で達成している演算性能は35.86TFLOPS(テラフロップス)で、4月18日付けで世界最高速として承認/登録されている(1テラフロップスは1秒間に1兆回の浮動小数点演算を行なう処理能力)。
地球シミュレータの筐体の高さは約2m |
1台1台から数百本のケーブルが出ている |
地球シミュレータ棟の床下は、ケーブルの波。ケーブルがうずたかく積もり、場所によっては45cmにまでなっているという |
NECソリューションズ副社長の小林一彦氏は、「地球シミュレータ計画のため、NECではハードウェア、ソフトウェア、半導体等の技術者1000人を投入した。このプロジェクトは大きなハードルであり、たくさんのブレイクスルーが必要だった。中でも大きなものがプロセッサー。従来32個のLSIで構成されていたものを1チップに集積しなければならなかった。つまり4年間で集積度を32倍に上げなければならないということ。ムーアの法則(半導体の集積度は1.5年で2倍に向上する)に則れば4年間では5.3倍。われわれは32倍の実現を目指し技術を駆使して障壁を打ち破った」
「次のチャレンジは、この1チッププロセッサーを並べて同時に動かすということ。このためにSUPER-UNIXの機能拡張、およびFortranを大幅強化を行なった。OS、言語、ハードウェア、半導体等あらゆる部分で技術革新を行ない、地球シミュレータを予定通り完成させた。われわれが作り上げた数々のテクノロジーが今後地球シミュレータの効率よい運用に役立つだろうと信じている。またこれらのテクノロジーが日本の技術力向上に役立つと考える」としている。
NECソリューションズ副社長の小林一彦氏 |
地球シミュレータに利用された技術 |
APモジュール |
RCAモジュール |
ノード間ケーブルとノード内ケーブル |
MMUモジュール |
地球シミュレータを利用することで、気候変動や地殻変動を予測できる。具体的には、局所的な台風の進路予測や集中豪雨予測、空港周辺でのダウンバースト予測、石油タンカー事故時の重油拡散予測といった気象災害予測、エルニーニョによる冷夏/暖冬といった中短期気候予測、地球温暖化といった長期気候予測、地球内部の仕組みや日本付近の地殻/マントル、地震発生過程など地殻変動の解明が可能という。
地球シミュレータは、全能力のうち50~55%が大気/海洋研究に、10%が計算幾科学の研究に、15%が他分野の研究に利用され、残りの能力を何に使うかについては地球シミュレータセンター長の裁量で決まるという。
地球シミュレータによりシミュレーションの質が向上。シミュレーションのます目が細かいため、リアリティーが増すという |
地球シミュレータのMOM3による解像度0.1度(ます目の大きさが約10km)のSST(海面温度)シミュレーション結果。従来のシミュレーションでは温度の境に発生しているうずが表示できなかったが、地球シミュレータでは地球規模で細かく表示可能 |
上記と同様のシミュレーションで日本付近をピックアップしたもの。うず潮もくっきり |
地球シミュレータのAFESによる解像度0.1度の降水量:Precipitationシミュレーション結果 |
地球シミュレータの運用に関しては、地球シミュレータ運営委員会が基本計画および重要事項を審議し、地球シミュレータセンターが実際の利用計画を策定するという。利用計画は7月中旬に決定し、その後利用計画に沿って、地球シミュレータを用いた研究が本格的にスタートする。
地球シミュレータは、文部科学省の“人・自然・地球共生プロジェクト”など、日本の研究機関や大学が利用する予定だが、海外の研究機関と共同研究を行なっている場合は、その海外の研究機関も利用できるという。地球シミュレータセンター長の佐藤哲也氏は、「実際、諸外国から問い合わせのほうが多い。共同研究を通して海外にも門戸を開きたい」としている。
なお、文部科学省では、地球環境変動の解明と予測を目指し、地球シミュレータ等による地球シミュレータ研究のほか、地球観測(観測フロンティア研究システム)、地球変動プロセス研究(地球フロンティア研究システム)との三位一体による研究開発を推進しているという。
佐藤センター長は、「地球シミュレータ計画における、第1次目的は、地球変動を正確かつ迅速に予測すること。中長期的天候変動や地球内部の変動、地殻変動、自然災害や人間による災害も予測し、それを用いて対処していくことで人命や財産を守る。同時に地球と人間の優しい共生関係を構築するためのデータを算出していく」としている。
また、地球シミュレータがインターネット経由など外部からのアクセスを受け付けないことについて、「スーパーコンピューター、そして地球シミュレータで利用するアプリケーションは、研究者たちが苦労して作り上げたもので、一般ユーザーが安易に扱えるものではない。ひとつ許すとすべて許さなければならず、計算能力に大きな負荷がかかる。地球シミュレータは400億円もの国民の税金をかけたものであり、無駄にはできない。外部アクセスは受けないが、地球シミュレータで算出したデータは公開したい」としている。
地球シミュレータセンターの佐藤哲也センター長(左)と、同特別補佐の平野哲氏(右) |