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Kylix動作確認レポート

2001年03月16日 11時41分更新

文● 渡邉利和 (toshi-w@tt.rim.or.jp)

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3月7日に、Linux版Delphiとして長らく注目を集めていたKylixが、遂に米国で製品出荷開始された。Linuxで利用できる本格的なRADツールとして普及が期待される。

Delphiは、Windows向けIDE(Integrated Development Environment:統合開発環境)市場でたいへん大きなシェアを持つ開発ツールである。このDelphiの使い勝手をそのままの形でLinuxに持ち込んだKylixは、これまではテキストエディタ+コンパイラというCUI環境で行なわれるのが一般的だったLinuxでのプログラム開発作業を、GUIベースに移行させる大きなきっかけになるだろう。

Kylixには3種類のパッケージが用意される。最上位となる「Kylix Server Developer」は165種類以上のCLXコンポーネント、データベース接続のためのネイティブドライバ、SQLモニタなどを備え、大規模なデータベースアプリケーション開発にも対応するパッケージだ(1999米ドル)。

「Kylix Desktop Developer」は標準版といった位置づけのパッケージで、CLXコンポーネントの数が130以上とやや少なくなり、データベースアプリケーション開発機能の一部が省略される代わりに、価格も999米ドルと約半分に抑えられている。

また、無償公開版ともいえる「Kylix Open Edition」も用意され、Webから無償でダウンロードできるようになる予定だが、こちらの提供は夏頃といわれている。

現時点では日本語版の出荷時期は明らかになっていないのだが、ここではプレリリース版として公開された日本語対応版を試用してみたようすをご紹介したい。

Kylixの特徴

Kylixの特徴は、Delphiの特徴とほぼ同等である。実のところ、Windows版のDelphiと同じ、といってよい。

Delphiに馴染みのないユーザーにとっては、Delphiの使用感が完璧にLinuxに移植されている、ということは特段のメリットにはならないのだが、そうはいっても定評のある開発環境なので、Kylixで始めてDelphi環境に触れるユーザーにとっても満足できる仕上がりと思われる。

Kylixは完全なネイティブコードアプリケーションを出力するため、アプリケーションの動作時に特別なランタイムライブラリを用意したり、あるいはインタープリタをインストールしておく必要などはない。また、コンパイラの動作もきわめて高速であり、開発/テスト実行/デバッグというサイクルをストレスなく何度でも必要なだけ実行できる点も開発効率の向上に大きく貢献している。

デバッグはGUI環境のままビジュアルに実行でき、エラー時にソースコードの該当行に自動的にジャンプするといった基本的な機能はもちろん、ブレークポイントの設定やデバッグ時にのみ利用する特別な条件設定などが、すべてGUI環境で利用可能だ。テスト実行は開発画面からボタンを1つクリックするだけで即座に行なえる。コンパイル作業が高速なこともあってこの作業にストレスを感じることはないし、テストのための環境は本番環境とまったく同一であり、妙な矛盾が生じたりすることはない。

なお、KylixではWebアプリケーション開発がサポートされている点が興味深い。Apacheのモジュール開発(CGIまたはDSO:Apache Shared Module)がサポートされている。ウィザード形式で基本的な部分が自動作成されるので、Webアプリケーション開発のために詳細な技術知識を学習しなくても、とりあえず動作するものは作成できるはずだ。また、Windows用の業務アプリケーション作成に広く利用されているDelphiの実績を受け継ぎ、データベース関連のコンポーネント等はたいへん充実している。この両者を組み合わせると、「バックエンドに置いたデータベースにアクセスして処理を行なうWebアプリケーション」が簡単に作れるはずだ。

現在のアプリケーション開発では、データベースとWebの組み合わせはかなり多いと思われる。さらに、WebサーバにLinuxを利用する例は珍しくないので、この用途はKylixの強力なセールスポイントになるのではないだろうか。ASPを使ってWebアプリケーションを作成したいがためにWebサーバにIISを利用する例もあると聞くが、Kylixの登場によってWebサーバ市場でのIISのシェアをLinuxサーバがこれまで以上に奪い取ることになるかもしれない。

CLX

GUIベースのIDEでは、マウス操作によって画面にコンポーネントを配置し、必要な処理を記述していく。ここで重要なのがコンポーネントの充実度合いである。使いやすく性能のよいコンポーネントが豊富にそろっていれば開発は容易であり、逆に使えるコンポーネントが乏しい環境では開発者が独自にコーディングすべき要素が増える。

Kylixは、Delphiで定評のあるコンポーネント群をLinux対応とすることで充実した開発環境を構築している。KylixでサポートされているコンポーネントはCLX(Component Library for Cross Platform)と呼ばれる機種依存性の低いコンポーネントライブラリだ。DelphiのコンポーネントはWindows対応として作成されていたが、この仕様を変更せずにクロスプラットフォーム化を実現するのがCLXだと考えてよい。

現在のDelphiではまだコンポーネントはCLXではなくWindows専用のものなので、実際にはDelphiとKylixでは異なるコンポーネントを利用していることになる。しかし、次期バージョンのDelphiではCLXが採用されることになっているので、この時点でDelphiとKylixの基本的な環境の統合が行なわれることになる。つまり、WindowsとLinuxを自由に行き来しながら開発が行なえるということだ。現在KylixでサポートされているCLXは、仕様としてはDelphiのコンポーネントを踏まえているため、Delphiで修得したコンポーネントに関する知識が無駄になることはない。

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