マルチリフレクションの重要性
四方さん 光というのはあまりにも大きなテーマです。大きすぎてすべてを取り上げることはできないけれど、単なるライトアートの展示にはしたくありませんでした。
今回の企画展では、外にある光を取り込んでいるという意味において受動的とも言える、一方通行のシステムであるカメラ・オブスクーラを概念的・現象的・知覚的に逸脱する作品を選んでいます。
しかし、それは単にコンピューターで描写・双方向化するということではありません。実際にここで体験しなければわからない、自分の目で、身体で感じる作品を集めています。
ミストが充満する真っ暗な空間にプロジェクターから白い線画が投影されるアンソニー・マッコールの作品、「You and I, Horizontal」は、プロジェクターから放たれ動き続ける光によって、壁だけでなく空間にも彫刻のように光の面が描かれていく。光の当たる場所だけ霧滴が反射し立体のように見えるのだ。
You and I, Horizontal
複数の回転周期を持つミラーボールにプロジェクターで「space」「speech」「speed」の単語を投影するミシャ・クバルの「space-speech-speed」では、光が物体や表面に衝突し反射して変化しすることに気づかされる。空間の意味が光の反射によって変わっているのだ。
space-speech-speed
順路の最後には、ヨーゼフ・ボイスの作品、レモンが持つエネルギーをバッテリーとして光る黄色い電球「カプリ・バッテリー」が待っている。非常にアナログに、しかし生き生きと、エネルギーの光への変換を示すシンプルな作品だ。
四方さん 展示作品の多くは、受動的なカメラ・オブスクーラというシステムの裏返し、つまり光の外に向かってのプロジェクション(投影)、または投げかけとして解釈できます。これらの作品に触れると、光は見る対象ではなく、そこにある存在を脳や身体で理解するためのものだと感じられます。
そして媒体によってまったく異なる光や、違った見え方が可能だという事実は、プロジェクションに対するリフレクション(反射)の存在をも表現します。
また、四方氏はマルチリフレクションという概念の重要性を指摘する。
四方さん 人間は光を発せず、ただ光を取り込むという点で、カメラ・オブスクーラのように思われがちですが、実はそうではない。
物理学者エルンスト・マッハは1886年、視覚について「物理的から生理的、心理的な領域へ」と述べています。光を対象化して見るのではなく、光を受けて自分がどう感応するか。世界が固定的ではなく動的に変化していくプロジェクションに対するリフレクションは、一定ではなく、多様なものとなるはずなのです。
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