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企業・業界レポート 第2回

ASCII Research Interview Vol.1

コンテンツ消費の縮図「とらのあな」が考えていること

2008年12月01日 14時00分更新

文● 村山剛史(構成) 聞き手●アスキー総合研究所所長 遠藤 諭 撮影●吉田 武

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―― 同人誌を扱うようになったのはいつ頃からでしょうか。また、流通ルートはどのように開拓したのでしょうか?

吉田 同人誌は開店当初から扱っています。実は開店前に本を並べてみたのですが、どうにも棚が埋まらなかった(笑)。というのも、マンガは既刊が手に入りにくいものでして、神田界隈の小取次(問屋)に行ってもなかなかそろえられなかったのです。

とらのあな本店

秋葉原・中央通りに面して並ぶコミックとらのあなの本店(右)と1号店(左)。

 どうしたものかと頭を悩ませていたときに、パソコン通信の仲間がマンガを描いていることを思い出しました。声をかけたところ快諾していただいたので、クルマで押しかけたら、6畳の部屋いっぱいに同人誌の詰まったダンボール箱が積み上がっていたんです。驚いていたら、「これ全部持って行ってよ」と言われましてね。ほかの知り合いも紹介してと頼んだら、その場で電話をかけてくれて、「OKだけれど、○○まで行ける?」「行きます、行きます!」と。

―― トントン拍子ですね。

吉田 どこに行っても部屋いっぱいにダンボール箱が積み上がっているような按配で、3軒も回ると軽のワンボックスカーが満杯になりました。それで、あっという間に同人誌が40種類も集まりました。

 最初に委託していただいたサークルは、その筋では有名なところだったのですが、なぜこんなに在庫が溜まってるのかと尋ねたら、コミックマーケットに出店しても、面倒になったら在庫があるのに途中で頒布をやめちゃったりとか、結構な暴れん坊将軍ぶりを発揮していたようで(笑)。ゴミ袋に20万円入れたまま捨ててしまったとか、豪快な逸話を聞きましたよ。

―― 今では国税庁の人がコミケに来ると言われるほどですが、それはまだ大らかだった時代ならではの話ですね。

吉田 現金管理も適当で、彼らは売ること自体にあまり頓着していませんでしたから。

―― それらの同人誌は買い切りですか?

吉田 委託販売ですね。7掛けで仕入れさせていただくかたちでした。

―― その経験が、現在に至るまでの同人委託販売システムの構築につながっているわけですね。当時すでに、渋谷の「ABCブックス」や新宿の「まんがの森」など、当時でも同人誌を扱っている書店はありましたよね?

吉田 ですが、とらのあなが開店する2年ほど前に、成人向け同人誌を置いていた書店が摘発を受けたことで(編註:当時、成人向け同人誌は無修正だった)「同人誌を置くのはリスクが高い」という認識が広まったらしく、書店から同人誌が姿を消していたんです。

裏通りからの成功物語はまだあり得る

―― 秋葉原は常に最先端を走っているわけではなくて、案外ほかの地域よりちょっと遅れているんですよね。マイコンも最初は新宿だし、ゲームも秋葉原が火付け役というわけではない。あとから取り入れて、それを集積させることで中心地となっていくパターンが多いように思います。それに、米軍の横流し真空管から始まったことに代表されるような、ダークサイド的いかがわしさもある。でもそれが魅力のひとつでもあります。

吉田 ただ、秋葉原の街自体はいたって健全です。ジャンク屋でも真面目にビジネスしてるところが面白い。「ユーザーの裏切り感」が少ないですよね。

―― 昨今、秋葉原にも再開発の手が入り、裏通りの雑居ビルが次々に建て替えられたことで、テナント賃料が暴騰状態と聞きます。裏通りで勃興し、中央通りに進出というまさに「とらのあな」が体現した秋葉原の成功パターンも、今後は成立しなくなるのではないでしょうか?

吉田 確かに再開発は進んでいますが、最近、秋葉原の地価は下がっているので、すでに建て替えられてしまったビルの賃料は高いままかもしれませんが、今後建て替えられるビルに関してはリーズナブルな賃料に落ち着くのではないでしょうか。そして、それに引きずられるかたちで、高賃料のテナントも下がっていくかもしれません。

 ですから、裏通りからのサクセスストーリーはまだあり得る、楽観視できると思います。今、裏通りにはメイド喫茶、ネコカフェ、鉄道模型店などなどがひしめき合っていまして、これらの業態が中央通りに進出する確率は高いと思います。ただし、ユーザーの嗜好ごとに細分化されてしまっているので、まずは集積させないと難しいでしょう。

―― メイド喫茶も、なかなかドーンと来るお店がありませんね。

吉田 問題はメイドがいないことです。数は集められるのですが、スタープレイヤー級のメイドさんは少ない。日本全国で200名ほどしかいないと言われています。その人たちを奪い合っている状況です。

―― フィギュアの原型師も、同じような状態だと聞きます。

吉田 こうなると、いくらお店が増えても1店1店が薄っぺらくなってしまうだけで、存在感のあるお店を作るのは非常に難しいと思います。逆に、中央通りに来なくても、ある程度の誘引力はある業態ですから、裏通りでこぢんまりとやる分には参入もしやすい。現在は小さなところが群雄割拠している状態です。

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