不可欠な機能としての「ゴミ箱」と「ごみ箱」
いまさら説明するまでもないが、ゴミ箱はファイルを削除する際に、いきなり恒久的にOSのファイルシステムから消去してしまうのではない。一度別の場所に保管し、あとでまとめて本当に削除することを可能にするものだ。
Mac以前にも、いったん削除の操作を加えたファイルを復帰できる機能を備えたものはあったが、その機能を象徴的な「ゴミ箱」というかたちでデスクトップに配置したのは、正確にはその前身にあたる「Lisa」が最初と言われている。
初代Macのデスクトップには、起動ディスクが右上角に、そしてデスクトップが右下角に置かれるのが標準だった。これは最新のLeopardでも変わらない。現在ではゴミ箱はDockに格納されているから、Dockの位置によってゴミ箱の位置も変わるものの、Dockを「下」または「右」に配置すれば、ゴミ箱は右下角になる。
ゴミ箱は、今も昔もゴミ箱をかたどったアイコンで表されている。Macが登場した当初のゴミ箱は、中身が入っていてもいなくても形状が変化しないものだったが、System 6からは中に何か入るとゴミ箱の側面が膨らんだアイコンとなるようになった。これは以前からサードパーティー製のカスタマイズソフトの格好のターゲットとなっていた部分だったが、アップルもその有用性を認めて正式に採用した。
ゴミ箱は一般のフォルダーにも似ているが、ファイルやフォルダーを削除する際には必ず通過させなければならない特別な存在。それは今も昔も変わらない。OS Xのゴミ箱はDockに格納されていることもあり、その「情報」を見ることはできない。
しかし少なくともMac OS 8時代のゴミ箱には、固有の「情報」があり、そこで中に入っているアイテムの合計サイズを確認したり、ゴミ箱を空にする前の確認を表示するかどうかなどをその場で設定できた。これは今よりもむしろオブジェクト指向的なインターフェースと言える。
OS XではFinderの「環境設定」という、ゴミ箱との関連がすぐに思い浮かばないような場所に、ゴミ箱に関する設定項目が置かれている。この中にはゴミ箱を空にする前に警告を表示するかどうかのオプションに加えて、「確実にゴミ箱を空にする」という設定項目もある。この意味は分かりにくい。
一般的なゴミ箱を空にする処理では、ディスクのディレクトリー情報を更新するだけでファイルそのものは残っていて、サードパーティー製のファイル回復ソフトによって復帰できる。「確実に空に」すると、ファイルの中身も意味のないデータで上書きされ、安全に消去可能だ。Macのゴミ箱はシュレッダーあるいは焼却炉機能を備えたものへと進化したと言えるだろう。
Windowsの場合は、初期のMacとは異なり、ゴミ箱に対する必要性は最初は認められていなかったと見える。Windows 3.1までは、警告は表示されるものの、ファイルはそのまま削除されていた。
WindowsがMacの「ゴミ箱」に対抗して「ごみ箱」を装備したのはWindows 95から。かなり遅れて登場しただけに、最初から中身の有無を反映してアイコンのデザインが変化するものだった。ごみ箱に格納可能な最大容量を設定可能など、現在のVistaと同等の機能を最初から実現していたのは印象的だ。
筆者紹介─柴田文彦
MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。
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