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柴田文彦の“GUIの基礎と実践” 最終回

柴田文彦の“GUIの基礎と実践”

ユーザーの優柔不断につきあう「ゴミ箱」

2008年12月02日 12時00分更新

文● 柴田文彦

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不可欠な機能としての「ゴミ箱」と「ごみ箱」

 いまさら説明するまでもないが、ゴミ箱はファイルを削除する際に、いきなり恒久的にOSのファイルシステムから消去してしまうのではない。一度別の場所に保管し、あとでまとめて本当に削除することを可能にするものだ。

 Mac以前にも、いったん削除の操作を加えたファイルを復帰できる機能を備えたものはあったが、その機能を象徴的な「ゴミ箱」というかたちでデスクトップに配置したのは、正確にはその前身にあたる「Lisa」が最初と言われている。

 初代Macのデスクトップには、起動ディスクが右上角に、そしてデスクトップが右下角に置かれるのが標準だった。これは最新のLeopardでも変わらない。現在ではゴミ箱はDockに格納されているから、Dockの位置によってゴミ箱の位置も変わるものの、Dockを「下」または「右」に配置すれば、ゴミ箱は右下角になる。

MacOS

初代Macのデスクトップの右下に配置されたゴミ箱。システム関連ファイルなどを入れようとすると警告を促すなど、初心者でも安心して操作することができた

 ゴミ箱は、今も昔もゴミ箱をかたどったアイコンで表されている。Macが登場した当初のゴミ箱は、中身が入っていてもいなくても形状が変化しないものだったが、System 6からは中に何か入るとゴミ箱の側面が膨らんだアイコンとなるようになった。これは以前からサードパーティー製のカスタマイズソフトの格好のターゲットとなっていた部分だったが、アップルもその有用性を認めて正式に採用した。

 ゴミ箱は一般のフォルダーにも似ているが、ファイルやフォルダーを削除する際には必ず通過させなければならない特別な存在。それは今も昔も変わらない。OS Xのゴミ箱はDockに格納されていることもあり、その「情報」を見ることはできない。

 しかし少なくともMac OS 8時代のゴミ箱には、固有の「情報」があり、そこで中に入っているアイテムの合計サイズを確認したり、ゴミ箱を空にする前の確認を表示するかどうかなどをその場で設定できた。これは今よりもむしろオブジェクト指向的なインターフェースと言える。

MacOS

OS 8では、ゴミ箱を選んで「情報」ウィンドウを表示することで、その時点での中身のサイズの合計をチェックしたり、警告の表示の有無のオプションを選べた

 OS XではFinderの「環境設定」という、ゴミ箱との関連がすぐに思い浮かばないような場所に、ゴミ箱に関する設定項目が置かれている。この中にはゴミ箱を空にする前に警告を表示するかどうかのオプションに加えて、「確実にゴミ箱を空にする」という設定項目もある。この意味は分かりにくい。

 一般的なゴミ箱を空にする処理では、ディスクのディレクトリー情報を更新するだけでファイルそのものは残っていて、サードパーティー製のファイル回復ソフトによって復帰できる。「確実に空に」すると、ファイルの中身も意味のないデータで上書きされ、安全に消去可能だ。Macのゴミ箱はシュレッダーあるいは焼却炉機能を備えたものへと進化したと言えるだろう。

MacOS

Mac OS Xでは、Finderの「環境設定」でゴミ箱のオプションを設定する。「ゴミ箱を空にする前に警告を表示」といううっかりミスを防ぐ設定もある

MacOS

Finderのメニューには「ゴミ箱を空にする」と「確実にゴミ箱を空にする」という2つの項目が並んでいる。ゴミ箱を開いたウィンドウの中のボタンで空にしてもいい

 Windowsの場合は、初期のMacとは異なり、ゴミ箱に対する必要性は最初は認められていなかったと見える。Windows 3.1までは、警告は表示されるものの、ファイルはそのまま削除されていた。

 WindowsがMacの「ゴミ箱」に対抗して「ごみ箱」を装備したのはWindows 95から。かなり遅れて登場しただけに、最初から中身の有無を反映してアイコンのデザインが変化するものだった。ごみ箱に格納可能な最大容量を設定可能など、現在のVistaと同等の機能を最初から実現していたのは印象的だ。

Windows

Windows 3.1では、「ファイルマネージャ」という独立したソフトでファイルを管理していた。デスクトップを管理する「プログラムマネージャ」とは別ものであり、ごみ箱は実現しにくい設計だったかもしれない

Windows

Windows 95から装備したごみ箱は、「箱」という名前にふさわしく四角いものだった。中身に応じてアイコンが変わるだけでなく、削除中にはアニメーションを表示するなど、最初から凝った仕様だった

Windows

Windows 95でゴミ箱を初めて実現したバージョンであるにもかかわらず、機能は現在のVistaとほとんど変わらない。ドライブ別にごみ箱の容量を制限する機能などを実現していた


筆者紹介─柴田文彦


著者近影

MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。


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