───今回のドラマCDの内容は、テレビでやり残したこと、やりたかったこと、できなかったことが中心なのですか?
【松尾監督】 テレビでは楽しい話とか、ちょっとホッとするような話がなかなかできなかったんです。そういうのを序盤に入れていたつもりだったんだけど、まだやりきれなかったところがあって。そういう部分をそうとうカットしてるのが僕の中でフラストレーションになっていたのでしょうね。だからなるべく楽しい話にしたかった。
テレビの場合、シリーズ構成が決まって、ある程度シナリオが上がったところでもうだいたい自分の中でやらなきゃいけないところが決まっていて、それ以外のところでどのぐらい遊べるだろうか、あるいはどういう楽しいエピソードが作れるのかを考えたけど、それが全然入らなかった。だから収録をしたけど切ったというだけじゃなくて、シナリオの第1稿にはあったけど切っちゃったというのがすごい数あるんです。
これ、僕の悪いクセなんだけど、なるべく普段の会話の延長でセリフのやり取りをさせたいから、実はちょっとした話がすごく長いんです。たとえば今回のドラマCDでも、最初の紅香が怒ってるところで2ページも3ページも使うなっていう……もうちょっと簡単にできるだろっていうのがあるんですけど、どうしても僕ダメなんですよね、それが。
少し巻き気味でしゃべってもいいから、「あっ、こういう怒り方する人いるな」って感じてほしいっていうのがあるんです。だから要約して相手に伝えるんじゃなくて、こういう人いるなっていう感覚を持ってほしいと。そうするとどうしても尺を使っちゃうという。
なるべく、普段スタッフがしている会話とか、あるいはキャストがしている会話とかをよく聞いてて、それをフィードバックする。だから収録中も聞いてて、あっ、なるほどなっていう、こういうこと言うんだっていうこととか、こういうこと思うんだっていうことを、後半のお遊びで使っていたんですよ。そうすると余計、序盤で僕が考えてたことがどんどんどんどん削られていってしまうわけです。
───そういうことも考えて、テレビはプレスコ(※)という形になっていたのですか?
【松尾監督】 プレスコのメリットとは切り替えて考えていたんですね。仮にアフレコであったとしてもできたかも知れないけど、たぶんアフレコだったらもっと尺が必要だったろうなと思います。
というのは、その前のセリフにくってしゃべっていくということがアフレコだとどうしても間になる。あるいは直結しかないってことになります。あるいは、そのくってくということをやろうと思うと別録りになることになって、どうしてもその空気感が出ないですし、僕らがタイムシートを作るのはとても困難。だからドラマCDではできてもアフレコではできないこともあるんですよね。
そういう意味では、プレスコだからこのセリフの分量がいけるだろうなと思ったことはあるけども、プレスコだからこのやり取りをやろうというのとはちょっと違ってますね。
※音声を先行して収録し、後から音声に合わせて絵を描く手法。
───ということは今回のCDはやりやすかったという感じですか?
【松尾監督】 本編のときにはもうこういう状態で録っていたから、その延長でできると思ってました。だから分量が多いだろうなと思ってはいたけど、これを普通のドラマCD的なしゃべり方でやったらきっと全然入らないぐらいのセリフの分量なんだろうなと思いました。
でもそれは1回テレビで観ているから、役者たちの呼吸感もなんとなくわかるから、なんとかなるんじゃないのかなっていう。あともう、彼女たちも、僕に切られてるのはもう慣れてるから、もうさすがに怒らないだろうと。(笑)
───DVDの中に没になっていた部分が収録されてますが、あれもまだ氷山の一角みたいな感じなんでしょうか?
【松尾監督】 そうですね。台本上にはあったけど、収録しないで削っちゃったっていう部分も後半かなりあって。で、その使わなかった部分を収録したDVD特典を声優に見せた後、僕、ものすごいバッシングされて。「いいかげんにしろ」と(笑) だから「最初から切ることがあるよって言ったじゃない」って言ったんだけどね。
声優って、普段アフレコしかやってないから、自分のセリフが切られてなくなるなんて想像がつかないんですね。実写では当たり前にあることなのに、彼女たちにはまったくわからない。黒田さんなんかは実写やってるから全然平気なんですけど、それ以外の人達が「私のセリフがない! あのときあんだけやり直しさせたのにない!」って言うわけです。
「このセリフは不要だと思った」とかいろいろコメント書いたら、「だったらシナリオに書くな」って言われて(苦笑)。だって編集して初めてわかることもあるんですよね。
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(C) 片山憲太郎・山本ヤマト/集英社・「紅」製作委員会