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アキバを作った“永遠の店長” ぷらっとホーム 本多弘男会長

“本多のオヤジ”のこと ――店舗の人 本多会長――

2008年07月17日 04時00分更新

文● 塩田紳ニ

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「変わる秋葉原」

ダイビルを見上げる

建設された頃のダイビル。つい先日といっても差し支えない、2004年頃の写真

 しかし、このぷらっとホームも2005年には店舗を閉めることになった。ビジネス的には、サーバーやシステム構築のほうは順調ながら、店舗販売が難しくなったからである。

 インターネットが立ち上がったあと、秋葉原は、主力商品を無くしてしまった感がある。大手の量販店は、淘汰期に入り、全国展開ができるかどうかが大きな分かれ目となり、いくら大きくても秋葉原だけの店は、成長が難しくなった。また、全国展開もすればいいというわけでもなく、それなりの困難があった。秋葉原の家電量販店の多くは、家電の卸会社をルーツを持つ。秋葉原は、日本の家電の中心だったのだ。

 都内のカメラ量販店からスタートしたヨドバシカメラやビックカメラ、地方からスタートしたヤマダ電機やコジマといった量販店チェーンとが、秋葉原系の量販店と国内で大きくぶつかることになったが、秋葉原勢は少し分が悪かった。秋葉原発のサトームセンはヤマダ電機に、石丸電気はエディオンに、ソフマップはビックカメラに買収された。そして、ヨドバシカメラは、秋葉原に店舗を出店した。

 こうした変化とは別に、秋葉原の中小の店舗にも変化が起こった。パソコンなどが広く普及するにつれ、また、秋葉原の量販店が全国に展開するあたりから、パソコンや周辺機器などは秋葉原に行かなくても買える商品になってしまった。たいていの商品は、最初は秋葉原でしか買えないものの、普及すれば、あっという間に全国で販売が行われるようになった。

 インターネットは、さまざまな情報を簡単に検索できるようになり、商品情報を得るのに店舗へいく必要もなくなってきた。パソコンが登場したころ、あちこちにパソコンショップができ、それらがオーディオやアマチュア無線、電子パーツの店を駅に近いところから順次、駆逐していき、こんどは、パソコンショップ自体がビジネスが成り立たず消えていった。その後に入ったのは、フィギュアやトレーディングカード、アニメ関連のショップだったのである。

 今回、鈴木社長にお話を伺ったぷらっとホーム株式会社の本社は、秋葉原駅前のダイビルにある。このあたりは、いまでは高層ビルが立ち、秋葉原の顔のような場所だが、かつては、ここに青果市場があり、こちら側は、どちらかというと裏側で、いま、ビラを配るメイドさんが立っているあたりが、秋葉原電気街の入り口だった。

 鈴木社長も、ぷらっとホームの店舗閉鎖の理由として「秋葉原自体が変わってきた」ことを挙げる。また、かつて通ってくれた常連さんたちも偉くなってしまい、店舗にはあまりこれなくなってしまったようだ。インターネットで情報が入手できるようになり「店舗が接点ではなくなってしまった」ということもあるようだ。

 2005年に店舗を閉めたあと、本多会長は、この本社にいたのだが、ときどき、尋ねてくる昔の常連とコーヒーなどを飲みにいったという。本多会長は享年64歳。思えば30年前、筆者が出会ったときには、いまの筆者よりも若かったのだ。みんなは「おっさん」とか「オヤジ」と言ってたが、今にして思えば、あのときは本多会長もまだ、若かったのだ。

 鈴木社長は、本多会長のことを「店舗の人」と言ったが、まさに「店長」こそ、本多会長の本来の位置なのだ。本多会長は、進んで新しいものを取り入れ、それで集まってくる技術好きの人を支援した。筆者も時々買い物しては、値引いてもらったことがある。変わったものを買うと「それ、うまく使えたら教えてくれよ、ほかの人にも教えてやるから」といっていた。本多会長を介していろいろな情報が交換されていたのだ。

 このところ、秋葉原をアニメやフィギュアの街、アイドルやメイド喫茶の街、海外からオタクの来る街といった切り口で扱うテレビ番組を何本か見た。以前より秋葉原が変わっちゃったと思っていたが、世間的にも、もうエレクトロニクスやコンピュータは、秋葉原の代名詞でもないのだ。そして8日の事件、秋葉原がこんなに変化していなければ、少なくともここで事件が起こることはなかっただろうと思う。前後しての本多会長の死。筆者の知っていた秋葉原は、本当にこれで終わったのだと、思い知らされた。

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