初めての地デジのIP再送信
先月、日本で初めての地上デジタル放送のIP再送信が始まった。地デジの放送開始から5年もたって、ようやくアイキャストとNTTぷららだけで、NHKと民放の番組がIP放送で見られるようになったのだ。
しかし今回の放送は、放送局の組織する「地上デジタル放送補完再送信審査会」で東京都内に限って認可された東京ローカル放送で、関東の他の県では見られない(5月23日には大阪での提供も発表された)。
もともとIPネットワークは、全国で一体である。これを東京都内だけに限定するため、両社の使っているNTTのNGN(次世代ネットワーク)では、東京都と隣接県との県境にあるすべてのルーターで工事を行ない、地デジの映像信号が他県に出ないように改造した。国境のないインターネットに、わざわざ県境を作る工事に1年以上を要したのである。なぜ、こんな無意味な工事をしたのだろうか?
それは2006年の著作権法改正で、IP放送を放送ではなく自動公衆送信という通信の一種としたためだ。通信の場合は個別に著作権の許諾が必要になるが、地デジの再送信だけは特別に「専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として、送信可能化を行うことができる」(著作権法第102条3項)と放送エリアを県域に限定して放送扱いにしたため、在京キー局の放送は東京都内にしか流せないことになったのだ。
IP放送は放送ではない?
なぜIP放送は、放送ではないのか。先の著作権法の改正に関わった文化庁の説明によれば、「IPマルチキャスト放送は、放送や有線放送と異なり、送信される番組が各家庭の受信機まで絶えず届いているものではなく、受信者がリクエストした番組が、受信者の元に個別に送信されるという仕組み」だからだという。
普通の人には、この文章の意味は理解できないだろう。「リクエストした番組が、受信者の元に個別に送信される」という点では、ケーブルテレビ(CATV)も同じだ。しいて違いを探せば、CATVの場合は全局のテレビ電波がケーブルの中を通っているのに対して、IPの場合には必要なチャンネルだけが流れるという点だ。
しかし、こんな違いは視聴者にはわからないし、サービスの内容にも影響しない。世界中でこんな区別をしている国はなく、IP放送はケーブルテレビと同じ扱いだ。欧米で「日本ではIP放送が放送じゃない」と言うと、「それはどういうことだ?」と質問され、どう説明しても納得してもらえない。なぜ日本だけでIP放送が差別されるのだろうか?
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