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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第19回

地デジのIP放送、なぜ東京ローカル?

2008年06月03日 11時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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総務省では「放送」なのに文化庁では「通信」


 総務省は、2001年に電気通信役務利用放送法で、IPマルチキャストを放送として扱うことを決めた。IP放送を普及させるために、通信衛星やブロードバンドなどのインフラを使って行なわれる映像配信サービスの規制をCATVより緩和したのだ。具体的には、免許制ではなく届け出制にし、著作権の処理などをCATVと同じ包括契約で行えるように変えた。

 これに対して、文化庁は「IPマルチキャストは、著作権法では自動公衆送信だ」と主張したが、これは法律に書いてあるわけではなく、文化庁の解釈に過ぎない。

 同じサービスが、役務利用放送法では「放送」扱いなのに、著作権法では「通信」だというのでは利用者が混乱するので、知的財産戦略本部や経産省でも「国会答弁で解釈を総務省に統一すべきだ」という意見が多かった。しかし文化庁は「著作権法の改正が必要だ」と譲らず、わざわざ文化審議会に諮問して時間稼ぎをはかり、改正が実現したのは、IP放送の規制緩和から5年後の2006年だった。



著作権法が地デジの足を引っ張る


 国会答弁で済むものを、わざわざ5年もかけて法改正したのは、地デジがIPで全国に再送信されると、キー局の番組を垂れ流して電波料(キー局からの補助金)を取っている地方民放のビジネスモデルが崩れてしまうため、テレビ局が文化庁に圧力をかけたからだ。CATVの場合には、免許区域をテレビ局より狭く設定することでテレビ局は既得権を守ったが、IP放送には免許がないため、著作権を理由にしたのである。

 本来なら、今、民放が2、3局しか見られない地域にも、IPを使えばすべての民放が見えるようになるはずだった。ところが、それをわざわざ見られないように工事を行なったため、東京以外の関東圏に住む人は、電波では見られる地デジの番組をIP放送では見られない。

 他方、地方民放は各地に中継局を建てる設備投資に苦しんでいる。特に山間地の小出力局の建設は進んでおらず、ビル陰などの受信障害にはまったく対応できない。「そういう難視聴地域にはIPで配信しろ」とテレビ局は通信事業者に求めているが、上のような複雑な工事が必要になるため、通信事業者は対応しない。皮肉なことに、著作権法を使ってIP放送を妨害したことが、地デジ普及の足を引っ張っているのである。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。



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