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柴田文彦の“GUIの基礎と実践” 第8回

柴田文彦の“GUIの基礎と実践”

「マルチユーザー」サポート

2008年05月26日 18時49分更新

文● 柴田文彦

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ファイル共有に始まるマルチユーザーの歴史

 Mac OS Xでは、当たり前のようにサポートしているマルチユーザー機能も、実は'99年に登場したOS 9からようやく導入されたものだった。パーソナルコンピューターが文字通り個人的なものなら、自分専用のマシンになぜユーザー名とパスワードを入力してログインしなければならないのか。それは大型コンピューターを多くのユーザーでシェアして使っていた時代の名残りではないのかと、いぶかしく思うユーザーがいても不思議ではない。実際にMacが登場した頃は、パソコンの「パーソナル」という特徴が強調されていた時代でもあり、マルチユーザー機能は、その必要性さえほとんど顧みられることがなかった。

 しかし、いくらパーソナルなMacでも、ネットワーク機能を装備するようになると事情は変わってくる。1台のMacについて見れば、マルチユーザーをサポートするわけではない。ただし複数のMacが接続されたネットワーク環境で、ファイル共有機能によって他人のMacの中にあるファイルにアクセスするためには、ユーザーを識別し、どのユーザーにどこまでのアクセスを許すかといったアクセス権の情報を管理する必要が生じる。こうしてマルチユーザー機能が不可欠なものとなったのだ。

 '91年に登場したSystem 7では、それ以前にはオプション機能として用意されていたAppleShareのファイル共有機能を標準装備した。コントロールパネルでそのMacの持ち主の名前とパスワード、ネットワーク上でのMacの名前などを設定したり、そのMacにアクセスを許可するユーザーを何人でも定義して、共有するフォルダーに対してユーザーごとにアクセス権を設定することなどが可能であった。こうした機能は、基本的な仕組みとしては現在に通じるものだ。

 OS 9から使えるようになった「マルチユーザ」機能は、こうしたファイル共有機能から派生したものとは明らかに異なり、現在のマルチユーザー機能同様、ユーザーごとに独立した環境を提供する。OS 9の同機能では、ユーザーごとに使用許可するアプリケーションソフトを選択できたり、通常のFinderを簡略化して初心者にも使いやすくした「パネル」と呼ばれるインターフェースを用意するなど、なかなか手の込んだものとなっていた。さらに、音声によってログイン可能な「ボイスプリントパスワード」機能など、今のOS Xにもない意欲的な機能を搭載していた。

 一方のWindowsでは、Windows 95までは、1台のマシンを複数のユーザーで共有するという意味のマルチユーザーの考え方はなかった。ただし、やはりネットワーク経由のファイル共有機能を利用するために、ネットワークにログインするためのユーザーという概念はあった。その後、Windows 98では1台を複数のユーザーで共有する機能を装備し、ユーザーごとに固有の「マイドキュメント」フォルダーを用意するようになる。ただし、マルチユーザー機能を使わない場合には、そのままログインせずに使えるなど、あいまいな部分も残されていた。XPからは現在のVistaにも通じるマルチユーザー機能を装備したが、ユーザーごとのフォルダーが格納される場所などについては、Vistaには引き継がれなかった。

Mac OS

Mac vs Win

System 7(漢字Talk7)から標準装備されたファイル共有機能をサポートする「Sharing Setup」のコントロールパネル。ファイル共有のほか、ソフトを共有する「Program Linking」機能も使えた

Mac vs Win

System 7のファイル共有機能では、「Users & Groups」のコントロールパネルによって新たなユーザーやグループを設定できた

Mac vs Win

Mac OS 9では、初期状態では機能全体がオフになっていたが、かなり本格的なマルチユーザー機能を利用できるようになった。アカウントごとにピクチャーも設定できた

Mac vs Win

OS 9のマルチユーザー機能でも、「通常」「制限付き」「パネル」という3種類のユーザーアカウントを定義することが可能だった


Windows

Mac vs Win

Windows 98の「ユーザー設定」コントロールパネル。1台のパソコンを共有する複数のユーザーを設定できた。ユーザーごとにデスクトップパターンなどの環境も設定可能だった

Mac vs Win

Windows 98では、起動後Windowsが使用可能となる前に、ユーザー名とパスワードを入力してログインする。ただし、ここで「キャンセル」すれば、ログインせずにマシンをひと通り使える

Mac vs Win

Windows XPでは、本格的なマルチユーザー機能を装備した。ユーザーごとのファイルや共有フォルダーは「Docum ents and Settings」というフォルダーにまとめられる

(MacPeople 2008年5月号より転載)


筆者紹介─柴田文彦


著者近影

MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。


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