ファイル表示方法の歴史と変遷
GUIの3大要素を挙げるとしたら、アイコン、メニュー、ウィンドウということになるだろう。この中でアイコンは、ファイル/フォルダーを表すものと、アラートの記号など、一種の絵文字として利用されるものの2種類が最初からあった。もちろんGUIで特に重要なのは前者。マウスのポインターでアイコンを直接操作することで、コマンドをタイプする必要がないのはもちろん、メニューも操作することなく、さまざまな処理を実行できる「オブジェクト」として機能するからだ。
もはや説明する必要はまったくないのだが、例えばフォルダーのアイコンをダブルクリックすれば、それがウィンドウに開いて自動的に中身を表示する。書類をダブルクリックすれば、それを作成したソフトを自動的に起動してその書類自身を開く。あるいはアイコンに付随する名前の部分をクリックしてポインターを動かすと、名前が選択状態となりその場でテキストエディター機能が動作して名前を変更できる。こうした動作は、初代のMacが登場した頃は、すべて驚きとともに一般のユーザーに受け入れられた。
初代のMacは、アイコンではなくファイル名のリストによってファイル一覧を表示する方法もすでに用意していた。当初はファイル名の前に小さなアイコンが表示されることもなかったが、こうしたテキストだけで表現されたファイルも、アイコンと同様のマウス操作を受け付けるオブジェクトとして機能していた。これはGUIの本質を考えるうえで重要な事実だ。
WindowsのGUIもアイコンを利用していたが、3.1の時代まではアプリケーションソフトやコントロールパネルといった機能を表すアイコン表示と、主に書類などのファイルを表すリスト表示は、それぞれ別のソフトのウィンドウに完全に分離していた。後者を受け持つ「ファイルマネージャ」では、ファイルをダブルクリックして開くことは可能だったが、その場でのファイル名の変更はできないなど、操作に制限のあるものだった。さすがにWindows 95以降では、Finderに似た「Explorer」というソフトで、アイコン表示とリスト表示をまかなえるようになった。それ以降、MacとWindowsの見た目は接近したものの、それによって微妙な違いがかえって覆い隠されるようになり、両者の間のなんとも言えない違和感は、いっこうに解消されない。
初期のWindowsは、前身であるMS-DOSの上に構築されていたから、ファイル名に関しては拡張子を全面的に採用していた。しかしWindows 3.1までは、「プログラムマネージャ」という機能によって、ソフトやそれを束ねるグループに関しては、ファイル名や拡張子とは無縁の一種の仮想環境を実現していた。ところがユーザーが作成したドキュメントファイルの種類は相変わらず拡張子で識別し、現在と同様に拡張子とそれを開くソフトを「関連付け」て管理していた。一般のファイルは、「ファイルマネージャ」という従来のファイル名、拡張子の世界で管理され、いわば二重構造という煩わしさを持っていたのだ。
Macは、System 7で導入された1ウィンドウ内での階層表示や、OS Xで導入されたカラム表示、LeopardのCover Flowなど、Finderによるファイルの表示方法のバリエーションを着々と増やしつつ発展してきている。
対照的にWindowsは、ファイル一覧の表示方法ではなく、広義のブラウザーとしての機能を強化する方向に進化している。例えば写真を格納したフォルダーを開いたウィンドウはフォトビューアーソフトのように、音楽ファイルを格納したフォルダーのウィンドウはまるで音楽プレーヤーのように機能する。
このような違いは、両者の進化を考えたときに最も興味深い部分であり、今後それらが相互にどのように影響を与えていくのか、注目していきたいところだ。
(MacPeople 2008年2月号より転載)
筆者紹介─柴田文彦
MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。
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