世界最薄ノートMacBook Airの誕生
この日の真打ちは、4つ目の発表。前日からの謎だった「air」に関するものだ。
「『There's something in the Air』──これは何を意味するのでしょうか。私たちは、MacBookとMacBook Proという地球上で最もすばらしい製品を作りました。この2つのノートパソコンは、業界のスタンダードモデルとなっています。本日、アップルは第3のノートパソコンを発表します。名前は『MacBook Air』。世界でもっとも薄いノートパソコンです」
ジョブズCEOは新モデルの名前を告げるだけで、実物はまだ見せず、現在市場にある薄型ノートPCの代表としてソニー(株)の「VGN-TZ(VAIO type T)」シリーズの説明を始めた。
「多くの人が、ソニーのTZシリーズはよい薄型モデルだと思うでしょう。しかし、TZは液晶が11または12インチと小さく、キーボードはミニチュアサイズ。CPUも1.2GHzのCore 2 Duoで、貧弱です」
続いて、スライドにTZシリーズの断面図にMacBook Airの断面図を重ねた模式図を表示し、MacBook AirはTZシリーズよりさらに薄いことを強調。さらに、MacBook Airの液晶は13.3インチとTZより大きく、CPUはTZが1.2GHzのCore 2 Duoであるのに対し、1.6GHzのCore 2 Duoを搭載する──など、実機を見せずにMacBook Airの優れた点を十分アピールしたうえで、スライドに茶色の書類封筒が映し出された。
「どこにでも転がっているありふれた封筒ですね。それではMacBook Airをお見せしましょう」
ジョブズCEOはステージのそでに向かうと、台の上からスライドと同じ茶封筒をひょいと取り上げた。
「これです」──ジョブズCEOが封筒から実機を取り出すと、会場からは「おーっ」という低い驚きの声があちこちで起こった。軽さを強調するように、MacBook Airを3本の指でお盆のように支えてみせた。
MacBook Airは、13.3インチの液晶モニター、LEDバックライト付きのキーボード、iSightカメラを搭載している。MacBook Airの備えたフルサイズのキーボードは、「今まで出荷した中で最高のキーボードだ」という。
トラックパッドは、マルチタッチジェスチャー対応。「システム環境設定」の「キーボードとマウス」パネルにある「トラックパッド」タブで設定できる項目が大幅に増え、iPhoneやiPod touchのように2本指、3本指のタッチ操作で画面のスクロールや画像の拡大/縮小/回転など、多彩なコントロールを実現する。
見えないところで薄型に貢献しているのが、米インテル社と共同開発した低電力仕様のCPU。通常のCore 2 Duoを60%小型化した製品だ。
ここで、米インテル社のポール・オッテリーニCEOが登場し、ジョブズCEOにCPUを手渡すパフォーマンスを見せた。オッテリーニCEOは、「お互いに最前を尽くし、すばらしいプロダクトを生み出すことができた」と語り、アップルとインテルの協力関係の強さをアピールした。
軽量薄型に伴い、省かれた機能もある。その代表が、イーサネットポートとFireWire(IEEE1394)端子だろう。
またアップルは、ノート型でも光学式ドライブを必ず搭載していたが、MacBook Airは光学ドライブ非搭載。その代わりに、無線LAN経由で接続したMacやPCの光学式ドライブを利用して、ソフトのインストールができる「Remote Disc」機能が新たに登場した。PCでMacのディスクを読み取れるソフトも用意するという。ほかのパソコンがない場合は、99ドル(日本では1万1800円)でUSB接続の外付け式ドライブ「MacBook Air SuperDrive」も発表している。
米国での価格は、ハードディスクモデルが1799ドル、SSDモデルが3098ドル。日本での価格は前者が22万9800円、後者が38万8400円だ。1月15日現在の為替レートが1ドル約110円のため、米国に比べると日本はSSDモデルのほうが割高になっているようだ。
最後にジョブズCEOは、MacBook Airは本体がアルミニウム素材のためリサイクル可能で、内部部品に鉛は使用していない、また本体サイズが小さくなったことでパッケージが56%に縮小され、輸送に伴うガソリンも少なくて済む──など、環境に配慮した製品であることもアピールして、MacBook Airの紹介を終えた。
ややもの足りなさが残った基調講演
基調講演は11時半ごろ終了し、実質約1時間少しと、例年に比べると非常に短く感じた。また、MacBook Airという新しいハードウェアはあったものの、毎回恒例のジョブズCEOの語り「One more thing.」に続く隠し球の発表や、フィル・シラー副社長が登場するにぎやかなデモがなかったため、若干もの足りなさを覚えた。