ITジャーナリスト・林信行氏が語る新iPodシリーズ。iPod shuffle/iPod nano/iPod classicの魅力を述べた前編と中編に引き続き、後編では、アップルの戦略を見ていこう。
戦略の素晴らしさに感嘆
iPod touchは、戦略的にも素晴らしいとしか言いようがない。
今回の発表で、iPhoneは実質的に200ドル値下げされたことになるが、それでも他の携帯電話と比べると、やや高目の価格設定であることには変わりがない。
iPhoneの素晴らしい機能を考えたら、それくらいの価格は本当はなんでもないことなのだが、そのように考えてくれる“違いの分かる人達”は既にiPhoneを入手してしまっている。これからアップルが説得しなければならない人達の中には「素晴らしいことはわかる。でも、やっぱりちょっと高いかも」と悩む人達が多いのだ。
しかし、今回、iPod touchが発表されたことで、iPhoneの比較対象は他社の携帯電話ではなく、iPod touchに変わってしまった。問題が“高いか安いか”ではなく、“電話機能と次世代モバイル端末機能が必要か不要か”にすり替わったのだ。
こうして今回の新発表を見つめ直すと、1つ1つの商品の、製品としての美しさもさることながら、iPodという製品のラインアップとしての美しさにも感嘆せざるを得ない。
また、発表のタイミングも巧妙だ。iPhoneが欲しくても買えない、米国外在住者の渇望感がピークに達しているところに、バッチリのタイミングでiPod touchを投入するあたりは脱帽するしかない。iPod touchが店頭に並ぶ日には、また全国のApple Storeの前に長い行列ができることだろう。
スタバがiPod touchユーザーの憩いの場になる
iPod本体の発表ではないが、アップルとスターバックスの提携も非常に面白いニュースだ。
米スターバックスは、居心地のいい空間を演出するために、音楽通の間では名が知れていたCDショップ、Hear Musicを買収。ここは音楽の選曲のセンスの良さを売りにしていたCDショップで、現在、同社の旧スタッフはスターバックスの音楽コンピレーションCDなどを製作している。
この買収のおかげで、米国ではスターバックスは、コーヒーだけでなく、趣味のいいコンピレーションCDでも注目されている。そのスターバックスで、気になる音楽を耳にして、その場で購買につなげる、というのは非常にうれしい戦略だ。
またスターバックスは、以前からインテルらと共同で各店舗への無線LAN設置も積極的に展開している。欧米においてスターバックスは、パソコンユーザーがウェブブラウジングをしに行く場所としても定着しており、そういう意味からもiPod touchユーザーの憩いの場にふさわしい。
iTunes Wi-Fi Music Store
iPod touch単体で音楽を購入できる“iTunes Wi-Fi Music Store”。スターバックスにおいてはこのiTunes Wi-Fi Music Store内に“Now Playing”サービスが現われて、店舗内に流れている楽曲の曲名を知ったり、楽曲やアルバムを購入することが可能になる。曲を購入した直後のアニメーションがおもしろいのだが、残念ながらまだサービスが稼働しておらず確認できなかった。
ちなみにこのサービスがあるので、「iPod touchはパソコンに一切頼らずに単体で音楽や動画のコンテンツを取りこんだり再生したりできるのでは?」という疑問もわくがこれは間違い。実はiTunes Music Storeのアカウント情報を入力するために、最初に一度、パソコンと同期する必要がある。iPod touchは、これまでのiPod同様、パソコンなしでは使えないのだ。実はこの点も、iPodをiPodたらしめている要因の1つであり、アップルの軸がぶれないことを証明している。
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