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<シリーズ>「日本版SOX法後」の業務はどう変わるのか(4)

「『正直に・正確に・正式に』を心がけよう」――公認不正検査士の戸村智憲氏

2007年06月04日 13時19分更新

文● 江頭紀子

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明るく笑顔で指摘しよう――内部統制への心構え


 身近な内部統制という問題に、現場はどのような姿勢で取り組むべきなのか。戸村氏は、「常に“正直に”“正確に”“正式に”の3つを心がけてほしい」と話す。

「業務上、何らかのミスをしたり、実績が目標に達しなかったりしても、“正直に”報告・相談・連絡し、それによってどれだけダメージがあるのか“正確に”把握する。そして、それをきちんと“正式に”公表すること。失敗を隠した時点でそれはすでに不祥事になってしまう。まずは“内部統制のホウ・レン・ソウ”で正直に対応することから始めよう」(戸村氏)

 これは自分自身の行動だけでなく、同僚や上司に対しても同様だ。周囲の不正に対しても、厳密に対処することを戸村氏は勧める。特に、不正と思われるような行為を上司から命じられたような場合は、社内の通報窓口や内部通告制度などを利用して通報や相談をするべきだという。

 もちろん、内部通報までいかないまでも、現場が「おやっ?」と感じること――たとえば先に挙げたハンコやボールペンの例のような些細なことでも――をお互いに建設的に指摘し合い、改善していけば、結果的に大きな不正や不祥事の防止につながる可能性は高い。

 ただし、このとき明らかに攻撃的な姿勢で指摘したり、表現を荒立てたりするとカドがたってしまう。あくまでも、「“表現”に十分気を遣い、笑顔で明るく厳密な“内容”を協議・指摘するように意識することがコツ」(戸村氏)だ。

 また、何がよくて何が悪いかの判断は、「“誰”に従うかではなく“何”に従うかが大切で、“人”ではなく規程類や法律に従うのが基本」(戸村氏)。「日頃お世話になっているあの人の指示だから」は通用しないし、「会社を守るため」と美談化するのも内部統制では不適切だ。

 それでも判断が難しい場合は、「社是・社訓・行動規範等を思い出すといい」と戸村氏はアドバイスする。社是や社訓にはその会社のあるべき姿や会社が大切にすべきことが述べられているはずで、そこに立ち返れば、個人がどう振舞えばいいかが分かるからだ。


企業風土は一朝一夕にできるものではない――「教育」がカギ


 「これからの時代は、不正を正すようなモノ言う社員が誉められるべき」(戸村氏)というものの、現実にはミスを正直に報告したり、上司や同僚に対して問題点を指摘したりすることが難しい職場もある。そこで、長期的な視点に立てば、不正を犯す者が出にくい組織とへと風土を変革することが求められる。

「根本にあるのは不正の起こらない風土をつくること。内部統制は『“業務の見える化”・文書化3点セットから始めよう』といわれるが、それは対症療法的なアプローチ。もうひとつ、体質改善による予防的なアプローチとして、組織風土全体を統制活動に役立てる“全般統制”の整備も忘れてはならない」(戸村氏)

 それには不正を起こす人の心理に直接影響を与え、意識変革すること、すなわち「教育」が大きなカギを握る。「社風や組織風土は一朝一夕にできあがるものではなく、じわじわと醸成させるもの。そうでないと本当には根づかない」(戸村氏)からだ。

 具体的な内部統制の教育とは、「社是から落とし込んだ行動規範を浸透させる」「各規程類を現場レベルに噛み砕いた解説で理解させる」など。手法としては、実際にあった失敗例や不適切な例を示しながら、ロールプレイ形式で双方向な研修を行なうと効果的だという。医療現場など見られるいわゆる「ヒヤリ・ハット」情報の共有のように、内部統制の「ヒヤリ・ハット」情報の共有を行なう方法だ。

「地道な教育が人の心理に働きかけ、内部統制の構築や健全な組織風土の醸成へとつながる」と説く戸村氏。内部統制は、誰もが関係あるものだけに、社内の人間関係にも影響を与えかねないが、「内部統制活動とは、上司も部下もお互いにもっと信頼・尊重するために行うもの。“あなたをもっと信頼したいからチェックさせて下さい”と“わたしをもっと信頼してもらうために監査や統制に協力します”という明るい監査・明るい統制活動へ向けて取り組んでほしい」と呼びかける。


日本マネジメント総合研究所 理事長 戸村智憲氏

早大卒。米国MBA修了(全米優秀大学院生受賞:トップ0.5%の院生が受賞)。国連で戦略立案エキスパート・リーダー、国連職員研修特命講師、国連環境会議事務局日本代表、内部監査業務を担当。その後民間企業の役員・内部監査室参事役を経て、BSCコンソーシアム公認BSCコンサルタントに招聘される。SOX法・内部統制関連のスペシャリスト資格(米国FBI特別捜査官の認定資格)である公認不正検査士(CFE)を取得し、日本版SOX法コンサルタントの養成にもあたっている。現在、J-SOX対応促進協議会顧問、日本経営行動科学学会理事など、幅広く活躍中。

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