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MCコジマのカルチャー編集後記第295回

自分がベイスターズにヤジを飛ばした日

2017年10月26日 08時00分更新

文● モーダル小嶋/ASCII

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 自分が横浜DeNAベイスターズのファンになったと意識したのは、2012年からです。

 それまで、野球は見るけれど、特定の球団を贔屓することはあまりなかった。たまたまそのとき住んでいた家から横浜まで電車1本で行けたこと、DeNAという会社が球団を持つこと、中畑清さんが監督を務めることなどを知り、最初はなんとなしに、ベイスターズの応援を始めたのでした。

 野球自体にはナムコの「ファミリースタジアム」シリーズをいくつかやりこむ程度には親しんでいましたが、ファン歴はとても浅いわけです。まあ、“にわか”と言ってもいいかもしれません。

 しかし、当時のベイスターズは……あまり、強くはありませんでした。筆者自身も「一球速報をリロードするたびにため息をつく」「エキサイトベースボールでエキサイトできない」「横浜スタジアムに観戦に行ったら場内に入った瞬間にバレンティン選手の打球が外野スタンドに消えていった」などの悩みを抱えていました。

横浜スタジアムのVR活用を取材したこともありました

 スポーツ新聞で一番話題になっているのが中畑清監督だったり、ネイジャー・モーガン選手のTポーズを真似したり、井手正太郎さんにあやかって素麺を食べたり、嬉しい思いも悔しい思いもたくさんしてきた横浜DeNAベイスターズの応援ですが、一度だけ、「とても後悔した」経験があります。

 ある日、筆者は横浜スタジアムで観戦していましたが、あいにくの負け試合でした。それ自体はどうということはない。ただ、試合中に、ある選手のプレーが原因で、ベイスターズが大量失点を喫してしまったのですね。その回が終わってベンチに選手たちが戻っていくとき、思わず内野席から、失敗した選手に対するヤジを飛ばしてしまいました。

 すぐに、「しまった!」と気づきましたが、あとの祭り。そして試合が進むにつれて、「なんてことをしてしまったんだ」と後悔の念が強くなってきました。もちろん、2万人以上がいるスタジアムです。グラウンドから遠い席にいる筆者の声など、まず選手に聞こえるわけがない。

 でも、もしかしたら……。もしかしたら、たまたま、自分のヤジが届いてしまったかもしれない。それが応援しているチームの選手の心を、わずかにでも、乱していたとしたら……。そんなことはありえないのですが、その考えは、ずっと頭の中に残り続けました。

 帰りの電車の中で、筆者はうなだれ、「もう、自分は本当のファンとはいえないな……」と悔やむばかりでした。ベイスターズのことは好きでも、これでは、本当のファンではない。自分は、ベイスターズファンを名乗る資格はないのではないか。

 もともと「自分はまだまだファン歴が浅い」という思いを抱いてはいましたが、その日から、ベイスターズのファンだと表明することに、少しだけ引け目を感じ始めてしまいました。現地観戦のときでも、野球談義に花を咲かせているときでも、記事の中でベイスターズの話題をするときでも、どこか心の中で「でも、自分は、本当の意味で、ファンとはいえない」と。

取材で横浜スタジアムのグラウンドに立ったときは「良いのかな?」と思ったものです

 そんな筆者の気持ちとはまったく関係なく、横浜DeNAベイスターズはメキメキと強くなっていきました。2015年は首位になった瞬間もありました(その後の揺り戻しもキツかったけれど)。2016年には、クライマックスシリーズに進出。さすがに、自分も涙を流しました。

 横浜スタジアムに続々とファンが押し寄せるようになり、満員御礼も珍しくなくなりました。休日などで横浜に行き、ベイスターズの看板を目にするたびに、チケットが売り切れだと知るたびに、ちょっと嬉しくなった。

 そして2017年。特にシーズン後半、読売ジャイアンツとの熾烈な3位争いが話題になりました。順位表でゲーム差を確認し、試合の結果を知り、手に汗を握る日々。3位が確定したときの盛り上がりは、昨年以上のものがあったかもしれません。

I☆YOKOHAMAシンボルキャラクター、バートとチャピー

 そして始まった、クライマックスシリーズ。ファーストステージの相手は阪神タイガース。第1戦は阪神タイガースが勝利しますが、その翌日、甲子園は大雨となります。それでも試合がありました。“泥試合”とも呼ばれた、田んぼのようになったグラウンド。ファンとしては「ああ、もう、お互いにケガはしないで」とハラハラするばかり。それでも、ベイスターズは勝利。翌々日の第3戦でも勝ち、ファイナルステージに駒を進めます。

 ファイナルステージには去年と同じく、広島カープが立ちはだかりました。第1戦、降雨コールドで広島カープが勝利します。ファイナルステージは先に4勝したチームが突破するのですが、リーグ優勝チームの広島カープには1勝のアドバンテージがあり、ベイスターズは0勝2敗となりました。

 筆者はこのとき、「雨で拾う勝ちもあれば、落とす勝ちもあるのだな」と、ファーストステージの揺り戻しを勝手に想像し、不安しか抱けませんでした。しかし、そうではなかった。

 ベイスターズはここから怒涛の反撃を見せます。勝負どころで次々と仕掛け、チャンスをものにしていく。相手が焦った攻撃をすれば、冷静なプレーで反撃の芽を摘んでいく。自分が知っていた、かつてのベイスターズは、そこにはいませんでした。彼らは、しっかりとした力をつけていました。

 シーズン中とは異なる戦略をズバズバと決断していくアレックス・ラミレス監督。それに呼応し躍動する選手たち。あれよあれよという間に3連勝。10月24日、第5戦。あと1つ勝てば日本シリーズ進出です。横浜スタジアムではパブリックビューイングが開催されていましたが、王手をかけていたこともあり、入場無料ということもあって多くの人が駆けつけ、入場規制までかかるほどに。

 初回に先制こそされましたが、やがて試合の展開はベイスターズ優勢となります。パブリックビューイングに集まった人たちが、横浜スタジアムの周りに続々と増えていく状況が、Twitterなどでしきりに報告されていました。ベイスターズは横浜のみならず、日本中にファンを増やしていたのです。

三浦大輔さんの引退会見で涙を流したこともありました

 漫画「SLAM DUNK」をご存知でしょうか。野球の話題なのにいきなりバスケットボールの話をするのかと思われそうですが、続けます。主人公・桜木花道たちの湘北高校は、全国大会を勝ち上がっていくのですが、そこで日本最強ともいわれる秋田代表の山王工業高校と戦うことになります。何度も気圧される湘北ですが、試合はシーソーゲームの様相を呈します。

 この試合中に、湘北のキャプテンである赤木剛憲が涙を流すシーンがあります。かつて弱小だった湘北で全国制覇の夢を持ち続けた彼は、厳しい練習を自分だけでなく部員にも課したものの、多くがついていけずに退部してしまう。それでも諦めなかった結果、最強とも言われた山王工業と互角に渡り合えるチームになった。

 今に至るまでの過去を思い出して、「まだ何かを成し遂げたわけじゃない」と思いながら、赤木は泣いてしまう。それを見て、彼の情熱を誰よりも知る副主将、木暮公延が「…ずっとこんな 仲間がほしかったんだもんな……」と感じるのです。

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 筆者はファイナルシリーズの第5戦で、このシーンをずっと思い出していました。まだ、日本シリーズに出られると決まったわけでもない。そもそも、自分は単なるファンであり、チームに何かに貢献したわけではまったくない。それでもこみ上げてくる何かがあった。過去の応援していた記憶と、そのとき抱いていた「こんなチームになれば良いな」という思いが現実になっていく。

 そして、ベイスターズはカープを倒し、19年ぶりの日本シリーズ進出を果たします。ああ、良かった。嬉しい。筆者は心からそう思いました。そのとき、自分がファンを名乗っていいのかという葛藤は、どこかに消え去っていたように思います。

 奇跡も、たまには起きるものです。ただ、信じられないようにうまくいく奇跡は、幾多の改善や努力などの積み重ねの上に、ふと生まれるのでしょう。スポーツはそれを目に見える形で教えてくれます。諦めないことの大切さをひしひしと感じました。

 もっといえば、そこまで大きな奇跡でなくてもいい。日常の中にささやかな楽しみや喜び、時には発見を与えてくれることがある。それだけでも、スポーツを見る醍醐味は十分にある、といえるかもしれません。

 そう考えると、以前の自分は、ファンになるということを大上段に構え、勝手に「本当のファン」という幻影を作り上げていたのではないか。どんな状況下でも選手を最後まで信じなければならない。スタジアムには(できれば)ユニフォームを着ていかなければならない。応援歌の歌詞は覚えなければならない……。今になって考えてみれば、「こうあるべきだ」という思想に縛られていたのかもしれません。そんなことは、たぶん、あまり気にしなくてもいいのです。

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