このページの本文へ

科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第124回

【JSTnews9月号掲載】創発的研究支援事業 研究課題「色覚視物質の作動機序解明に基づいた色覚多様性の生物学的基盤の確立」

霊長類の色覚の仕組みを一部解明、視覚疾患の診断・治療の一助に

2026年09月24日 12時00分更新

文● 中條将典

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ヒトを含む霊長類の網膜には、赤・緑・青の波長にそれぞれ反応する3種類の「錐体(すいたい)視物質」があり、これらが特定の波長の光を吸収することで脳が色を識別しています。赤と緑の錐体視物質はアミノ酸配列の約96%が共通しているにもかかわらず、吸収する光の吸収波長に約30nm(ナノ*メートル)の差があり、この差により私たちは赤と緑を識別しています。しかし、この波長差が錐体視物質のたんぱく質のどのような立体構造に基づいて生じるのかは、わかっていませんでした。

 名古屋工業大学生命・応用化学類の片山耕大准教授らの研究チームは、マカクザルの赤と緑の錐体視物質の「光を受ける前の状態」の3次元構造を、クライオ電子顕微鏡を用いた解析によって原子レベルで決定。錐体視物質のたんぱく質内部で光を吸収する物質であるレチナール自体は赤・緑でほぼ同じ構造を持つ一方、その周囲に存在する赤錐体だけにある3つの親水性アミノ酸残基の「配置」や、それによって形成される「電気的な環境」が原因となり、約30nmの波長差を生み出すことを明らかにしました。さらに、錐体視物質における膜側面の横穴構造を解明し、レチナールの放出と取り込みが異なる経路を通じて行われることで、高速な視覚サイクルを実現している可能性を示しました。

 今回の成果は、霊長類が持つ色覚の仕組みを、たんぱく質の立体構造に基づいて初めて明らかにしたものです。ヒトの色覚多様性(先天赤緑色覚異常)を分子レベルで理解することで、視覚疾患の病態解明や診断・治療の一助となるでしょう。

*ナノは10億分の1

赤と緑の波長差を生み出す分子構造(左)と、レチナールの放出・取り込みを支える横穴構造(右)。錐体視物質の色覚機能を支える仕組みを示す。

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
  • 角川アスキー総合研究所