メルマガはこちらから

PAGE
TOP

トカマクだけ見ていると見誤る。方式が広げる核融合の別の論点

トカマク、レーザー、FRCミラー。炉が変われば、産業の組み方も変わる

特集
日本で核融合は産業になるのか。商用化の条件とは

 国内で開発が進む核融合炉は、大きく分けて、トカマク(ヘリカル型を含む)、FRCミラー型、レーザー型の3つがある。

 第1回〜第3回では、トカマク型を前提に、炉の周辺から産業を立ち上げていくものとして整理してきた。しかし、国内スタートアップである株式会社EX-Fusionのレーザー型や株式会社LINIAイノベーションのFRCミラーハイブリッド方式やといった別方式の話を聞くと、その前提がすべてに当てはまるわけではないことが見えてくる。

 本稿では、それぞれの技術的な詳細には踏み込まず、方式の違いによって、核融合の産業化における前提がどこで分かれていくのかを整理していく。

方式が変われば、産業設計も課題も変わる

 まずは、各方式の特徴を簡単に整理しておこう。技術的な優劣ではなく、産業の成立条件や乗り越えるべき課題を軸に見ていく。

トカマク型(ヘリカル型を含む)

技術の概要:強い磁場で高温プラズマを閉じ込め、連続的に核融合反応を起こす方式。

期待される役割:大規模・連続運転による基幹電源。発電所モデルに近い。

産業として成立する前提:超電導、真空、プラントエンジニアリングなど、既存の産業基盤を活かしやすい。安全設計やO&M(Operation & Maintenance:運用管理・保守点検)を共通化しやすい。

産業化への壁:材料、運転・保守、規制対応。「動かし続ける」ための設計と人材が重い。

レーザー型

技術の概要:微小な燃料ターゲットに高出力レーザーを照射し、瞬間的な核融合反応を繰り返す方式。

期待される役割:高頻度パルスを前提に、連続した出力を成立させる発電。加えて、レーザーや制御技術の産業波及。

産業として成立する前提:炉心よりも、ターゲット供給や照射の同期、周辺装置の信頼性が主戦場。発電所というより高速プロセス設備に近い産業設計が求められる。

産業化への壁:高頻度運転に耐える周辺機器の寿命評価とコスト。「連続出力」を前提とした運転・保守設計の確立。

FRCミラー型

技術の概要:直線状の装置内で磁場を用いてプラズマを閉じ込め、トリチウムなどの放射性燃料を用いずに核融合反応を目指す方式。

期待される役割:小型・分散・用途特化。

産業として成立する前提:既存の技術を活用できる部分が多いが、これらを核融合システムとして統合するための設計基準や、加工・検査手法の標準を確立することが課題。

産業化への壁:耐久性や核融合の効率向上。「一度動く」から「連続して動かす」への移行。

 炉の方式が異なれば、必要となる装置や工程も変わり、関わるサプライヤーの顔ぶれも変わってくる。ここからは、そうした違いがどこに表れるのかを国内スタートアップ2社の取り組みからもう少し具体的に整理していこう。

応用先行で進む、レーザー方式の別ルート──EX-Fusion

 レーザー方式を採るEX-Fusionの取り組みは、トカマク前提の産業像とは異なる視点を与えてくれる。

 レーザー方式は、微小な燃料ターゲットに高出力のレーザーを照射し、一度の反応ごとにエネルギーを取り出す。同社が見据えるのは、単発の反応ではなく、高頻度のパルスを積み重ねることで、実質的に連続した出力を成立させる発電だ。

 レーザー方式が他と大きく違うのは、使っている技術そのものが、すでに既存産業として成立している点だ。例えば、レーザー加工機やLiDAR、医療・美容分野の脱毛器など、高出力レーザーや精密な光学制御は、すでに身近な製品や産業で使われている。

 EX-Fusionが開発しているレーザーや制御技術も、核融合専用のものではない。実際に、同社の高出力レーザーや制御技術は、レーザー加工機などの用途で外部企業に納品されており、核融合を目指しながら、既存産業向けの応用技術としての事業化も進んでいる。

 つまり、レーザー方式では、「発電所ができるまで産業が動かない」という構図になりにくい。発電以前の段階から、技術そのものが別の産業と接続されやすい点が、トカマクやFRCミラー型とは大きく異なる。

 一方で、商用化に向けた最大の課題は、あくまで連続運転だ。高頻度で回し続けたときに、装置はどれだけ持つのか。コストはどこまで下がるのか。特にレーザーダイオードなど一部の部材では、供給者が限られており、需要を前提にした量産設計が不可欠になる。

 EX-Fusionは限られた資源の中で進めることを前提に、作り方そのものを工夫している。レーザーを巨大な装置としてまとめるのではなく、小さなユニットを組み合わせて使う設計だ。壊れたら取り換え、必要になれば追加し、少しずつ数を増やしながら、発電所を育てていくイメージに近い。

 EX-Fusion代表の松尾一輝氏は、開発から社会実装に至るプロセスを最初から分業で捉えている。

「最終的な炉を、スタートアップがそのまま担うとは考えていません。商用段階では、当然ながら、重工メーカーなどと役割分担しながら進めるのが現実的です」

 このスタンスは、後述するLINIAイノベーションと同様に、「自分たちだけでは産業にならない」ことを前提にしている点で共通している。ただし、違いはその距離感だ。EX-Fusionの場合、炉の完成を待たずとも、周辺技術の段階で産業との接点がすでに生まれている。

 レーザー方式のEX-Fusionが示しているのは、「核融合を目指す研究開発」と「既存産業に向けた技術の応用・事業化」を同時に進めるというアプローチだ。発電所の完成を待つのではなく、技術が使えるところから市場に出し、その延長線上で核融合を目指す。そうしたスタートアップらしい進め方が、すでに事業としても動き始めている。

小型・分散を狙う、炉起点の別ルート──LINIAイノベーションのFRCミラー

 トカマク型が、巨大な装置を前提に、遠隔地で発電し、送電網を通じて社会全体を支える「基幹電源」を目指すのに対し、LINIAイノベーションが狙うのは、小型・安全・設置柔軟性を生かした分散型の発電だ。実証の延長線上には、工場やデータセンター、離島など、「電力を使う場所の近くに置く核融合炉」という発想がある。

 同社のFRCミラー方式は、燃料に「軽水素」と「ホウ素11」を使うことで、中性子がほぼ出ない核融合を狙っている。そのため、放射線を遮蔽するための巨大な施設やブランケット、人が近づけないことを前提にした無人点検ロボットといった設備を必ずしも想定しなくていいのが特徴だ。他方式と比べて、装置のサイズや置き方の自由度が高くなる。

 「小型で、安全そう」という特徴は、目に見えやすい違いだ。そしてその小型化は、装置の大きさだけでなく、重厚長大な産業像とは別の前提を生み出している。

 FRCミラー方式では、耐久性や製造の考え方そのものが、従来の核融合炉とは大きく異なる。LINIAのアプローチは、巨大プラントを一体で作り込むのではなく、改良を高速に回す装置開発に近い。産業側に求められるのは、装置製造や精密加工、検査、組立、実証運用を担うプレイヤー群が連携する新たなサプライチェーンの構築だ。

 つまり、「核融合だから、これまでの重電・重工が担うはずだ」という前提は、FRCミラー型では必ずしも成り立たない。そして、現時点では、FRCミラー方式を前提としたサプライチェーンの具体像は、産業全体としてはまだ描かれていない。

 LINEAイノベーション代表の野尻悠太氏は、「我々は発電事業者にはならない。発電所も運営しない。炉をつくるメーカーに徹する」と述べている。そして現時点では、発電事業者を含む具体的なパートナー像は、まだ定まっていない。

 結果として、FRCミラー型の周辺には、製造や運用、インフラなど、さまざまな分野の企業が入り込める余地がある。その広がり方次第で、社会実装の姿は変わってきそうだ。

核融合はゼロサムゲームではない。関われる余地は複数ある

 ここまで見てきたように、核融合は「どの炉が勝つか」を競う話ではない。トカマク、FRCミラー、レーザーは、それぞれに異なる前提と役割があり、複数の技術が並行して生き残る可能性がある。

 日本政府が特定の方式に絞らず、複数のアプローチに投資しているのも、こうした構造を踏まえた判断と捉えることができる。それは必ずしも、「夢の技術」へのロマン先行の賭けではない。

 視点を少し変えれば、核融合は「遠い未来の発電所」ではなく、既存産業と接続しうる複数の技術の集合体でもある。炉そのものを作らなくても、装置、材料、加工、制御、運用、知財など、関われる領域は多い。投資家や事業会社にとっても、核融合は「自分には関係のない産業」ではなく、何らかの形で接点を持ちうる分野になるのではないか。

 資金力で世界を制圧するのは難しくても、技術やノウハウで入り込む余地はある。これまで日本の産業を支えてきた製造業と同じように、どこの国の核融合炉であっても、中身の部品や知財を日本企業が担っている――そんな立ち位置を、積み上げていくことは十分に可能だろう。

 そして、仮に将来のエネルギーの主役が別の技術になったとしても、核融合炉の周辺で磨かれた材料、制御、製造の技術が、半導体や宇宙、医療など別の産業で生きる可能性は高い。核融合は、単なる未来の発電技術ではなく、次の産業基盤を形づくる挑戦でもある。

 次回は、こうした前提を踏まえ、「どの方式が有望か」ではなく、核融合にどう関わるかを、役割ごとに整理していく。

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー