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“刺さるマンガ”との出会いをどう生むか? コミックシーモアが“マンガ愛”で取り組むAI・データ戦略

2025年12月24日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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“読者のマンガ愛”に寄り添うためのデータ・AI活用

 内製開発チームのチーフプロデューサーを務める松尾優太氏は、3つのAI活用を紹介した。

NTTソルマーレ 電子書籍事業部 内製開発チーム チーフプロデューサー 松尾優太氏

 ひとつ目は、読者のマンガ愛から「作品タグ」を生成するAI活用だ。読者レビューから、「感動する話」「テンポがいい」「絵が繊細」といった、ジャンルにとらわれないような作品タグを自動抽出する。こうした生の声を反映することで、読者の感性に響く作品との出会いを生み出せるのが特徴だ。実際に、サイト内の回遊率や滞在時間の向上、さらには購入コンバージョン率の改善にもつながっているという。

自動抽出される作品タグ(右)

 作品タグは、Google Cloud上のAI開発プラットフォーム「Vertex AI」でPythonを動かし、そこからデータ基盤やCloud Storage、モニタリングにデータを吐き出すというシンプルな仕組みだ。加えて、単語の正規化や表記ゆれは自然言語処理で対応しつつ、すべてを自動化せずに手作業を残しているのがポイントだという。

 まず、「意味ベクトル」に基づいた階層クラスタリングを構築。単語の“意味の近さ”がしきい値を超えた時にタグをまとめる処理を施している。これは「例えば『かっこいい』と『イケメン』を別のタグとして扱うような細かな粒度で分けると、タグ数が爆発的に増えるうえ、両方のタグで同じ作品があふれてしまう」(松尾氏)からだ。さらに、タグの選出と付与の処理は分離しており、選出のプロセスでは、人手によるタグの追加・除外の工程を挟むことで品質を担保している。

作品タグ生成を支える技術

 2つ目のAI活用は、読者のマンガ愛を定量化する「ユーザークラスタリング」だ。すぐ消されがちなキャンペーン情報の誘導において、「価値のある情報を届けたい」という想いから構築している。読者の趣味・趣向を反映した高度なクラスタリングにより、バナークリックや購入コンバージョンを改善しており、他のマーケティング施策にも活用されている。

 まずは、閲覧や購入などの読者の行動データを基に、複数ジャンルを複合的に組み合わせたクラスターを作成。これに「積極性」と「深さ」からなる独自の重み付けを掛け合わせて、従来の記述統計に深みを加えている。重みづけにおける積極性は購買につながっているかを、深さはどの巻数まで購入しているかを反映している。

 さらに、デモグラフィック情報のヒートマップ化やLift値の確認といった、クラスタリングデータを評価するための仕組みも実装している。他にも、マーケティングに適用しやすいよう学習データやクラスタ数、ジャンルを制御するなど、「“ビジネスとして正しい”クラスタリング」(松尾氏)を目指して設計されている。

ビジネスにつながるクラスタリングの仕組み

 最後のAI活用は、従業員のマンガ愛を伝える「レコメンド基盤」だ。従来はSaaS型のレコメンドサービスを利用していたが、より社員の想いを反映できるようレコメンド基盤を内製して、柔軟なデータチューニングを実現している。リコメンドの範囲は、「少女マンガ×恋愛」「青年漫画×恋愛」といったジャンルまで深掘りしており、クリック率を約6倍、閲覧コンバージョン率を約4倍にまで向上させている。

 読者の趣味・趣向を反映したクラスタデータを用いており、それをレコメンド基盤でフィルターをかけることで、より読者に“刺さる”レコメンドを実現している。レコメンド基盤には、ABテストやモデル劣化検知、KPI計測の仕組みも実装。これらを用いて、精度向上やシステム改修などを短いサイクルで回し続けるための運用体制を確立している。

リコメンド表示の例(右)

 まとめとして松尾氏は、「事業成長が第一命題ではあるが、嬉しくなる体験を読者に届けたい、という想いが根底にある」と締めくくった。

 「ポップアップは煩わしいが自分に向いた情報だと嬉しいかもしれない。レコメンドひとつとっても読者がどう受け取るかという定性的な面を重視してAI活用する。今後も、データではなく読者と向き合う視点を持ってAI・データ活用を進めていきたい」(松尾氏)

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