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高度ながん治療をアシストする放射線治療計画ソフトウェア 東北大学「アイラト株式会社」

連載
社会実装に向けた研究、技術 大学発スタートアップがつくる未来を知る

 がん患者の数は年々増えており、依然として死因の第1位になっている。治療方法としては外科手術や投薬のほか、放射線治療が挙げられる。しかし、放射線治療は効果が高い治療法とされるものの、日本ではあまり普及が進んでいない。

 こうした放射線治療が普及していない状況を変える技術を開発しているのが東北大学発のスタートアップ「アイラト株式会社」だ。

現在の放射線治療におけるネックを解消する技術

 アイラトは「テクノロジーを活用し、全世界のがん患者を放射線治療で救う」というミッションの実現を目指し、木村祐利代表取締役、角谷倫之代表取締役によって設立された東北大学発のスタートアップ。同社がミッション実現へのアプローチのひとつとして取り組んでいるのが「AIを活用した放射線治療計画ソフトウェア」の開発だ。

 放射線治療計画というのは、がん患部にどのように放射線を照射するのかを決めるもの。放射線治療医がCT画像にがんの位置や広がり、周囲臓器の形を書き込む輪郭抽出と、照射部位や角度などを検討する照射領域決定、最後に放射線技師が計画を基に安全性検証を行うというプロセスで構成されている。これらの作業には多くの時間を要し、さらに患部にピンポイントで放射線を照射するより高度な計画を立てるにはおおむね6時間とかなりの時間を要する。

 加えて、時間をかけて計画を立てたとしても、医師の経験や技術によって治療効果にどうしても差が生じてしまうのが現状だという。そもそも日本では放射線治療医や放射線技師の数が少ないこともあり、人材の少ない地方の病院では放射線治療の導入が進まず、結果的に日本全体での普及が進んでいない。

 角谷氏によると、「日本の放射線治療普及は25%程度で、60%のアメリカと比較して少ない。特に昨今は高い治療効果を持つ強度変調放射線治療(IMRT)の普及が進んでいる中、日本では医師の経験不足や人材の不足により放射線治療自体の普及が進んでいない。そこでAIを活用した放射線治療計画ソフトウェアを開発した」という。

SFのような世界の実現に寄与する可能性がある

 アイラトが開発したAIを活用した放射線治療計画ソフトウェアでは、従来は医師と放射線技師が行っていた輪郭抽出、照射領域決定、安全性検証を自動で行うことが可能。これまで6時間必要だった高度な治療計画でも、20分と非常に短い時間に短縮することができるという。

 また、高度な学習を施したAIによる「高品質な治療計画」を立てることができるのも大きなメリット。先述のように、「医師の経験や技術によって計画の正確性や治療効果にどうしても差が生じてしまう」という問題の解決にもつながる。加えて、導入のしやすさも特徴。人材不足をカバーしつつ、どのクリニックでも短時間で高いクオリティーの治療を提供することが可能になる――とのことだ。

 角谷氏によると、「日本だけでなく、同じように放射線治療の専門医が少ない国での活用も目指している。特にアジア地域には放射線治療医がいない国もあり、抗がん剤治療を行う医師が放射線治療も行っているといった状況。こうした状況を変えることにもつながる技術だと思っている」とのことで、海外での活用も期待されている。

 アイラトのAIを活用した放射線治療計画ソフトウェアの普及は、より効果の高い強度変調放射線治療の普及にもつながる。そもそもがん治療は「非常に難しいもの」というイメージが強いが、強度変調放射線治療が一般的になれば、「どこでも最先端の放射線治療が受けられるという世界」になるだろう。また、医療関連法規の見直しも必要になるが、放射線治療計画ソフトウェアが発展し、同時に治療技術も発展すれば、「家庭でがんを調べ、そのがんに応じた治療計画を立て、自宅の機器で放射線治療をする」といった、まるでSFのような世界も「夢ではない」と角谷氏は話す。

 医療現場だけでなく、一般家庭の在り方にも大きな影響を及ぼすだろう。

 現在は1号機のローンチを目指して開発を進めている段階だが、すでに医療現場からは高い評価を得ているという。また、今後登場予定の2号機では、時間の短縮ではなく、より高度な計画の立案にもアプローチしたシステムになる予定とのこと。

 がん治療は医療における大きな課題であることから、今後の展開に期待したいところだ。

アイラト 代表取締役 角谷倫之

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