駅直結で好立地な「渋沢MIX」が県内外をつなぐイノベーションのハブに
「中小企業との連携」、「人材育成」、「資金支援」三位一体で挑む埼玉モデル
提供: 埼玉県
2025年7月25日にオープンした、埼玉県のイノベーション創出拠点「渋沢MIX」。JRさいたま新都心駅東口直結という好立地にあるこの拠点は、首都圏の中央に位置し、産業の多様性を強みとしてきた埼玉県が、人口減少や超少子高齢化といった課題に対応するために設立した。
「スタートアップの創出・成長支援」、「オープンイノベーションの創出・促進」、「イノベーションを担う人材の育成」という3つのコンセプトを掲げ、県経済の活性化を目指す「ハブ」機能の実現を目指している。
駅直結の「好立地」と渋沢栄一翁に倣う埼玉独自の「ハブ思想」
渋沢MIXの大きな特徴のひとつがアクセスの良さだ。さいたま新都心駅の改札を出てからコンコース上にて徒歩ですぐの近さは、他地域の拠点と比べても利便性が際立つ。例えば、東京の「TIB(東京イノベーションベース)」(有楽町)は徒歩1分程度だが、渋沢MIXはそれを上回る。開館時間も平日10時から21時、土曜日は18時までと長めに設定され、会社員や学生も利用しやすい。
渋沢MIXは、埼玉県が設立したイノベーション拠点だ。その活動はスタートアップ支援に限らず、中小企業との連携を重視している。県内には約16万社の企業が存在し、その多くを占める中小企業の中には尖った技術を持つ企業も多い。渋沢MIXは、こうした中小企業がスタートアップや大企業とのオープンイノベーション促進に取り組むことを第一のコンセプトに掲げている。
このコンセプトの根幹にあるのがハブという考えだ。この考えは、明治期に500以上の企業設立に関わり、人と人をつないで100年以上続く企業を多数生み出した渋沢栄一に由来する。渋沢が得意とした「人の掛け合わせ」の姿勢を受け継ぎ、渋沢MIXもまた人や企業を中心に多様な機関を結びつけるハブを目指している。
ロゴマークには、渋沢のルーツである深谷の養蚕業にちなんだ「藍玉(丸)」と、東京駅や深谷駅にも用いられた「レンガ(四角)」をモチーフに採用。異なる背景を持つ人々の交流を象徴するデザインとなっている。
施設設計にもこの思想が反映されている。一般的な行政施設に多い箱型デザインとは異なり、壁と平行に仕切らず、斜め45度に配置するレイアウトを採用。これにより、ワークスペースとイベントスペースを緩やかに分けつつも利用者の交流が促される。イベント実施時には奥のワークスペースからも、何かやっているなと見渡せる設計だ。また、45度設計は、音響的なメリット(音の減衰)をもたらすほか、ほどよい「死角」が打ち合わせスペースの確保にもつながる。
渋沢MIXでは、利用者同士の交流を促し、イノベーションの創出や成長を支援するために、多様な専門人材を配置している。まず、施設の「顔」となるコミュニティマネージャーが常駐し、相談対応やイベントの企画・運営など、コンシェルジュ的な役割を担う。
さらに、共創コーディネーターが予約制で相談に応じており、企業同士や県外機関とのマッチングを支援。特に中小企業とのオープンイノベーションを推進している。
加えて、スタートアップアドバイザーも予約制で相談に応じており、スタートアップへの専門的な助言やベンチャーキャピタルへの橋渡しを行う。とりわけ埼玉県出身のベンチャーキャピタル代表パートナー級の専門家が、地元貢献の思いから関わっており、資金調達に関する高度なサポートを提供している。
利用は原則として会員登録制だが、目的に応じて複数の参加形式が用意されている。
・プレイヤー会員:オープンイノベーションに取り組む企業、スタートアップ、起業を目指す方(学生含む)などが対象
・パートナー会員:プレイヤー会員に対してスキルやサービス提供を通じて協力する会員
・スポンサー会員:渋沢MIXの取組に賛同し、金銭的支援(年55万円(税込))を行う会員
この3区分に加え、コワーキングスペースはドロップイン(3時間1,320円(税込))での一時的な利用も可能。また、イベントのみの参加であれば会員登録は不要となっている。
3本立ての支援プログラムと活発な交流
渋沢MIXでは、施設が持つ基本的なサポート機能に加えて、3つのコンセプトに沿ったプログラムを展開し、イノベーションの動きを創出・促進している。
・オープンイノベーションプログラム「Canvas」:企業間の協業を創出・促進
・渋沢MIX スタートアップ創出・成長支援プログラム「S4」:スタートアップの創出・成長を支援
・学生向け起業伴走プログラム「GAKU∞STA」:起業を目指す学生を対象に伴走支援を実施
これらのプログラムは、渋沢MIXのベース機能による支援とあわせて、個別プログラムとして手厚くスピーディーな成長を後押ししている。
さらに、施設では会員・非会員を問わず参加できるイベントやセミナーも積極的に開催。月20回程度、イノベーションに関わる多彩なテーマで行われ、コワーキング利用者とイベント参加者との新しい出会いや交流の場となっている。
なお、これら3つのプログラムの成果を披露する場として、2026年3月上旬には大規模なデモデイの開催も予定されている。
渋沢栄一の思想を受け継ぐ拠点づくり
埼玉県は首都圏の中央に位置し、産業の多様性を強みとして全国でも上位の県内総生産を維持してきた。かつては人口が増え続けていた唯一の県だったが、近年は人口減少に転じ、超少子高齢社会という課題に直面している。
埼玉県産業労働部 産業支援課 渋沢MIX担当 主幹の佐藤雅康氏は「この状況を打破し、新しい時代を切り開くために、渋沢栄一の思想に基づき、人と企業を結びつける『場』が必要だったことが、渋沢MIX設立の背景にあります」と語る。当初は「渋沢栄一起業家サロン」として構想されていたところ、人と人が出会うことが難しいコロナ禍で検討を一時中断したが、2022年から有識者による議論を重ね、遂に2025年7月に「渋沢MIX」として結実した。
地域の多様な課題をつなぐ「ハブ機能」
埼玉県には約16万社の中小企業があり、首都圏の大企業や東京の大学に通う学生・社会人との距離も近い。こうした「埼玉都民」と呼ばれるネットワークも含め、渋沢MIXは県独自の強みを生かす核として期待されている。
さらに佐藤氏は「63の市町村を抱える埼玉は、地域によって産業構造や課題が大きく異なります。南東部は人口が増加する一方、北西部では山林の未利用や遊休耕作地が増えています。渋沢MIXの役割は、こうした地域ごとの課題をつなぎ、県全体で共創による解決を図ることです」と説明する。
例えば、北部の余った倉庫を持つ事業者と、南部でドローン実験場や子どもの遊び場を必要とする人々を結びつけることで、新しいビジネスが生まれる可能性がある。また、農業ロボットの実証実験など、東京では難しい取組も埼玉だからこそ実施できる。
渋沢MIXのチーフコミュニティマネージャーで、コワーキングスペースの運営などを埼玉県内で10年以上運営している星野邦敏氏は、「県全体を巻き込む機能こそが渋沢MIXの核心です。基礎自治体や民間の施設では難しい、63市町村を横断した共創が実現できるのは県の拠点だからこそ」と強調する。
専門人材が伴走。アイデア段階から相談可
渋沢MIXにはコミュニティマネージャー、共創コーディネーター、スタートアップアドバイザーといった専門人材が配置され、事業アイデアの段階から相談できる体制が整っている。
特に注目されるのは、スタートアップアドバイザーの質と、その背景にある「埼玉のネットワーク」だ。スタートアップアドバイザーには、埼玉県にゆかりのあるベンチャーキャピタル代表パートナー級が、地元貢献の思いからスポットで参画し、資金調達や事業計画への助言を行っている。
共創コーディネーターの合田氏は「埼玉出身のVCや投資家は多いものの、公に名乗らない方が多い。そうした潜在的な貢献意欲を掘り起こすことで、トップクラスの方々に協力いただける体制が実現しました」と話す。共創コーディネーターは資金調達の助言だけでなく、投資後のセカンドオピニオンとしての役割も担っている。
ファンドで“東京流出”を防ぐ
スタートアップにとって大きな課題となるのが資金調達だ。これまでは出資を受けた企業が東京へ拠点を移す「東京流出」が常態化していた。これに対処するため、渋沢MIXと連動して総額10億6000万円の「渋沢MIXファンド」が設立された。
このファンドは、創業期の企業だけでなく、第二創業や事業承継後の取組、中小企業の新規事業にも投資対象を広げている。いわば「インパクトファンド」として、地域経済全体の活性化を狙っている。
佐藤氏は、「渋沢MIXファンドがあることで、埼玉で資金調達を行い、埼玉で成長するという流れが可能になりました」と語る。第1号案件となった農業ロボット企業のように、埼玉ならではの実証フィールドを活かすスタートアップの成長が期待されている。
すでに広がる利用と交流
2025年7月のオープンから2カ月余りで、登録申し込みは約400件、そのうち約300件が審査を通過。企業・団体会員は1社につき8名まで登録できるため、実際の利用者数はさらに多いそうだ。コワーキングスペースは7〜8割埋まる日もあり、すでに活発な利用が始まっている。
また、月20回ほど開催されるイベントやセミナーも交流の場となっている。非会員も参加できるため、多様な人材が集まり、渋沢MIXの名前を冠することで集客力も高まっている。実際、他の行政イベントに比べ参加者が増加した事例もあるという。こうしたイベントを通じ、プログラム参加者や利用者同士のつながりが広がり、新しい共創の機会が生まれている。
渋沢MIXは、施設の開設、専門プログラム、ファンドという三位一体の体制が整い、いよいよ本格始動の段階に入っている。今後の取組について佐藤氏は「ようやく体制が整い、これからがスタート。知事が言うように、渋沢MIXのハブとしての機能をさらに充実させ、県内外、国外の拠点とのネットワーク構築を進めていきます。会員の皆様にとってより良い施設となるよう、運営側や各プログラムの事業者と連携しながら努力を続けたい」と語る。
合田氏は「この施設から、“埼玉といえば”と言われるようなヒーローとなるスタートアップを生み出すことが目標。また、埼玉は地域資源が豊富で広大です。過去にぶつ切れになっていた県内のコミュニティをつなげ、県全体で盛り上がるような『層の厚さ』を作っていきたい」と話す。
星野氏は、「私は長年、民間企業としてコワーキングスペース運営に携わり、県内・県外に幅広いネットワークを持っています。人口減少という地域経済の分岐点において、県だからこそできる、5年先、10年先を見据えた共創を担っていくことの意義を強く感じています。私たちのネットワークを存分に生かし、埼玉県の産業経済に貢献していきたい」と抱負を語った。
3人が共通して描くのは、渋沢MIXを埼玉のスタートアップ拠点として成長させる未来像だ。ファンドと専門人材の伴走により「東京流出」を防ぎ、渋沢栄一に倣ったハブ思想のもと、県内の多様な課題を結びつけながら新しい産業を生み出す。その核となることが期待されている。
■利用情報
【アクセス】JRさいたま新都心駅東口直結ビルekismさいたま新都心5階
【開館時間】平日 10時~21時、土曜日 10時~18時
※日曜日・祝日・お盆及び年末年始を除く
※イベント開催時は延長の場合あり
【原則として会員登録制】
プレイヤー会員:個人と企業(無料)
パートナー会員:個人・企業・団体(無料)
スポンサー会員:年間55万円(税込)
・ドロップインでの利用、イベントのみ参加も可
※会員登録にあたって、事務局による面談があります。


































