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イカ陸上養殖の商業化から日本の食文化の安定と活性化を目指す 沖縄科学技術大学院大学「Kwahuu Ocean」

連載
社会実装に向けた研究、技術 大学発スタートアップがつくる未来を知る

 昨今、問題視されているのが国内の海産資源の不安定化だ。「ひと昔前は豊漁だったのに最近はほとんど捕れなくなった」、「捕れる魚の種類が変わった」という海産物は枚挙に暇がなく、近年になって海産資源の保護や養殖といった動きが活発になっている。そんな中、沖縄科学技術大学院大学(OIST)発スタートアップ「Kwahuu Ocean」は、イカ類の養殖システムの開発と安定供給を目指している。

これまで困難とされていたイカ養殖につながる研究

 Kwahuu Oceanが取り組んでいるのが、養殖システムを用いたイカ陸上養殖の商業化だ。「そもそもイカは養殖されていなかったのか」と驚く人がいるかもしれないが、実はイカやタコなどの頭足類は独特の生態や生育環境に加え、特定の餌管理が必要なことから長年養殖が困難とされていた。

 Kwahuu OceanのCEOであり、現ミネソタ大学教授の中島隆太氏によると、「現在でも水産養殖にはいまだにどの種も至っていない」とのことで、イカの国内漁獲高が下がっている昨今、海外の輸入品頼みなのが現状だという。

 そんな中、沖縄科学技術大学院大学のジョナサン・ミラー教授が率いる物理生物学ユニットが、アオリイカを含む10種類以上の頭足類の飼育実験を2016年から実施。2017年8月に始まったアオリイカの飼育実験では、2022年8月まで累代飼育10世代という世界記録を達成した。Kwahuu Oceanが生み出したシステムは、20フィートのコンテナを用い、その中でイカを陸上養殖するという仕組みだ。

 沖縄科学技術大学院大学での研究で得られた「イカを生育する環境」、「餌の知識」などの知見が活用されているだけでなく、ユニット同士をネットワークでつなぎ、各ユニットで得た情報や知識を共有する仕組みも備えている。

養殖用に20フィートコンテナを採用した背景

養殖に使われるコンテナ

 20フィートコンテナは、よく港などで見かけるサイズ。養殖場としてはそこまで大きなサイズではない。このサイズのコンテナを使用する理由について中島CEOは、「一般的な養殖施設のような規模だと初期投資に何十億も必要になるが、確実に採算が取れるわけではない。最初から小型のユニットなら初期投資も抑えることができ、また確実にイカが養殖できるのなら、少量生産で付加価値を付けることで、漁業者の数人が食べていけるだけの利益は出る」と話す。

 また、「そもそもイカは誰もが毎日大量に消費する食材ではないのに、毎日大量にスーパーに並べられている。海産資源や環境のことを考えても、こうした『大量に生産・出荷して大量に並べる』という考えは改めるべきだと思う。こうした思いもあって、このサイズで十分だと考えた」とのことだ。

 サイズは小型だが、この養殖ユニットを各地に「分散型」で設置することで、地域ごとでは小規模ながら、日本全体で見ると大きなスケールでのイカ養殖と安定供給が実現できる。ただし、各地域で生産されたイカは全国に出荷するのではなく、あくまでその地域に向けた「地場食材」として出荷するのが理想だという。

「イカの養殖」という一見するとシンプルな取り組みの中に、地域活性化やサステナビリティなビジョン、さらには現在の日本の食文化への問題提起も含まれているのだ。

イカ以外の海産資源養殖への応用も期待

 現在は開発したユニットを実際に動かし、年間でどのくらいの量が養殖できるのか、どのくらいのコストが必要になるのかといった実働データを取得するフェーズにある。その後、沖縄県内を中心に展開し、現場の漁師や魚業関係者と連携を取りつつ、システムのブラッシュアップを行なうとのこと。

 また、今後の展開について中島CEOは、「国内でも気温の高い沖縄でまずテストし、その結果次第で全国に広げていきたい。また、イカの養殖モデルを成功させることにより、同じ形で別の海産物養殖に取り組む企業も出てくるかもしれない。日本全体で取り組むことで、資源だけでなく、海の汚染などの環境問題の解決にもつながるとうれしい」と話す。

 実際に養殖ユニットで育ったイカが出荷されるのはまだ先の話になり、「最初のうちは養殖コストの兼ね合いもあって安い価格で出荷するのは難しいと考えている」とのこと。しかし、安定供給が実現となれば、高品質なイカが比較的安価に食べられるという、「イカ好き」にとってはうれしい未来になるかもしれない。

 また、中島CEOの話にもあるように、イカ養殖技術を生かすことで、他の海産物の安定供給化にも期待できる。加えて、日本の海産資源を見直すきっかけにもなるだろう。Kwahuu Oceanのイカの陸上養殖は日本の食文化の根底にある「安心安全な食卓」を維持するという点にもつながる技術。これまで実現されていなかったイカの陸上養殖が、日本の食卓にどのような影響を与えるのか注目だ。

Kwahuu Ocean 中島隆太CEO

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