増大するデータの保存問題を解決に導く 名古屋大学「DNAデータストレージデバイス」
世の中のデジタル化が進む中で問題視されているのが、毎日のように生み出される大容量データの「保存」だ。実は莫大なデータを保存するためのコストや電力、生産能力が現実に追い付いていない状況だ。
世界各国でこの課題の解決が進められている中で、名古屋大学 大学院工学研究科 マイクロ・ナノ機械理工学専攻 マイクロ・ナノ機械科学 教授の伊藤伸太郎氏が事業化を進める「DNAデータストレージデバイス」という技術に注目が集まっている。
2025年には180ゼタバイト、莫大な量になる年間のデータ量
「データ保存問題」は現在、世界レベルで解決が求められている課題のひとつ。あらゆる産業でデジタル化が進み、情報社会となった現在、2017年の時点ですでに年間のデータ生産量は30ゼタバイト。ギガバイトにすると30兆ギガバイトと途方もない数字だ。しかし、2025年には180ゼタバイトと8年で6倍にまで膨れ上がっており、2030年には600ゼタバイトを超えると予測されている。
伊藤教授によると、こうした膨れ上がるデータ量の影響で「データセンターの設備や運営コストの増加」、「データセンターで使う電力量の爆発的増加」、「ストレージメーカーの生産能力が限界に達する」といった問題が浮上しているという。特に全世界のデータセンターにおける年間の電力使用量は、このままだと世界の総電力の13%を占めるほどになるという。また、生産能力の限界も2030年と目の前に迫っていると予測されている。
また、「データ保存技術」にも課題があるという。
一般的にデータは、「HOTデータ(使用頻度が高くデータ量が少ない)」、「WARMデータ(HOTデータに次ぐ使用頻度とデータ量)」、「COLDデータ(使用頻度は低いがデータ量は大きい)」に分類される。これら世界の全保存データのうち、全体の50~80%と最も多く割合を占めるのがCOLDデータだ。COLDデータは現在ハードディスクや磁気テープに保存されているが、今後も膨らみ続けるCOLDデータを長期間に渡り安定して保存するためには、より低コストな方法が求められているのだ。
ひとつのデバイス内で全てのプロセスを行う新技術
伊藤教授は、上記の「データ保存問題」に対し、「DNAデータストレージデバイス」という技術での課題解決に取り組んでいる。
「DNAデータストレージデバイス」は、データの「0101~」という配列を一定の規則に沿って、文字列で表現できるDNAの塩基配列データ「ATGC」に変換。その塩基配列データをもつDNAを合成して保存し、データ利用の際にはDNAを取り出し、再びバイナリデータに戻す――という技術だ。しかし、従来の「DNAデータストレージデバイス」は、作成したDNAをカプセルなどに保存し、使用するたびにカプセルを破壊しなければならず、一度使用したDNAも保存できず廃棄するため(再度保存するには再生成する必要があった)高コストがネックだった。
そこで伊藤教授は独自の研究技術による「繰り返し保存可能なDNAデータストレージデバイス」を生み出した。伊藤教授が生み出したDNAデータストレージデバイスは、マイクロデバイス内でDNAを自在に動かすことに成功。この技術を基盤として、DNA合成から封入、取り出し、読み出し、再封入をひとつのシステム内で行うことを目指している。さらにサイズもわずか2cm(※プロトタイプのサイズ)と非常に小型であることも特徴だ。
今後の情報社会を維持するためにも必要不可欠な技術
磁気テープに代わってDNAデータストレージデバイスを使用することにより、ひとつのデバイスの容量を2ペタバイトへと拡大することを目標としている。1日当たりの消費電力は7kWhから1kWh。耐久年数も10~20年から500年と伸ばすことができ、トータルでのコストは従来の3000分の1にまで抑えられるのではと伊藤教授は予測しいる。
また、DNAデータストレージデバイスは、次世代の光学ストレージ技術と比較しても、容量や設備面で優れており、トータルでも非常に優秀な性能を秘めているという。スマホを利用するのが当たり前になった現在、個人単位で生み出されるデータ量も膨大になりつつある。現状の技術のままでは保存コストも高くなり、保存に必要な電力も増加する一方。「データ保存のために電気代アップ」といったことが起こる可能性もゼロではないだろう。
伊藤教授は「皆さんの生活にダイレクトに影響する技術ではないが、必ず解決しないといけない大きな問題にアプローチするもの。情報が享受できる社会を維持するためにも、実用化を実現させたい」と抱負を語っており、今後の展開に期待したいところだ。































