「標準化は声を上げた人が勝つ」スタートアップが世界で戦うための条件
ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:慶應義塾大学SFC研究所 下農淳司氏
ディープテックや大学発スタートアップが世界市場で生き残るために欠かせないのが「標準化」だ。必要な機能を国際仕様に組み込めなければ、どれほど優れた技術も商機を失う。ASCII STARTUP TechDay 2025では、標準化をテーマにしたセッション「新産業創出のルールメイキング戦略 〜変化する世界にスタートアップはどう適応する?~」を実施する(セッションの概要はこちら)。今回はモデレーターを務める、W3C国際化WGで長くウェブ標準の世界に携わっている慶應義塾大学SFC研究所・下農淳司氏に話を伺った。
――まずは、普段取り組まれていることを教えてください。
元々は東大で望遠鏡や観測装置を開発していました。その後、2018年から慶應SFCのW3Cプロジェクトに移り、技術スタッフとして活動しています。ワーキンググループの運営や国際化WGが行う仕様レビューを担当しています。Mozilla日本コミュニティやhtml5jでも活動していたので、グローバルな標準化の現場と日本の開発者コミュニティをつなぐことも役割のひとつです。
――今回のセッションテーマは「標準化」です。どんな問題意識をお持ちですか。
標準化は「人のつながり」で動く部分がとても大きい。欧米では、会社をまたいで標準化に取り組み続ける人がいて、時に「標準化ロビー活動屋」と呼ばれるほどです。研究者的なスタンスで、自分の技術領域に必要な機能をどう標準に組み込むかを研究し続ける層が存在します。
日本の場合はどうしても国内事情や自社仕様だけで事業展開することにこだわり、結果として国際標準に対して必要な要素を入れ損ねることがある。その結果が「ガラパゴス化」です。グローバルに展開するなら、「これがないと商売にならない」という要素を標準化に組み込む努力が不可欠です。
――スタートアップや大企業の担当者は、どう関わればよいでしょうか。
まずは「欲しいものは欲しい」と声を上げることです。標準化団体は万能ではありません。W3Cもスタッフは50人程度で、世界中のすべてをカバーできるわけではない。だから熱量を持って「これが必要だ」と主張しなければ、検討対象にすらなりません。
日本はどうしても「待ちの姿勢」になりがちですが、標準化の現場は結局、熱量のある人が動かしていく世界です。もし自分のビジネスが成り立たなくなるほど重要な機能なら、覚悟を持ってリソースを投じる。それくらいの気持ちで臨むべきだと思います。
――現場で印象に残っているエピソードはありますか。
あまり記事には書けないですが(笑)、仕様を入れてもらうために説得や「泣き落とし」に近いやりとりになることもありますね。それぐらい人間関係や信頼が重要です。「あいつが言っているなら入れよう」という空気がある。だからこそ、技術の優劣以上に、誰がどれだけ本気で言っているかが問われる。熱量を持った人が増えるほど、標準化は動きます。
――国際的に見て、日本はどういう立ち位置にありますか。
残念ながら、日本市場は昔ほど重視されなくなっています。ITユーザーは世界で数十億人規模になり、漢字圏ならまずは日本ともいわれた2000年代からするとシェアは小さくなった。そう「日本を無視できない」時代があったが、今は違う。だからこそ必要なものは「必要だ」と言い続けないと置いていかれます。
電波法や技適の問題のように国内規制が障壁になることもありますが、それでも主張しないと国際標準から外れてしまう。スタートアップも含め、日本からの発信がより強く求められています。
――標準化を専門に担うような人材は、日本にも必要でしょうか。
海外にはリサーチャーや標準化専門人材が存在します。日本でもURA(研究職の支援専門人材)のような制度はありますが、人材育成はなかなか進んでいません。教授本人に「研究も起業も標準化もやれ」と言うのは無理な話。外から人材をアタッチして動かす発想が必要です。
とはいえ現状では、スタートアップ自身が覚悟を決めて動くしかないのも事実。標準化は鶏と卵で、取り組む人がいなければ支援も育たない。最初に声を上げる人がいてこそ、環境も整っていくんです。
――スタートアップが標準化に取り組むとき、最初の一歩は?
小さくてもいいので、とにかく声を上げることです。後になって「標準に入らなかったからビジネスが失敗した」と言っても遅い。最初から自分で動き、必要な人を巻き込む覚悟が必要です。熱量が高い人が動けば、必ず共鳴してくれる仲間が現れる。そうやって少しずつでも標準化の場に関わることが大切です。
――最後に、TechDay当日に向けたメッセージをお願いします。
一番伝えたいのは「標準化は避けて通れない」ということです。ガラパゴスでよければ黙っていても良かった。ただ国内市場がグローバルに飲み込まれたいまは、声を上げて主張しないと生き残れません。当日は、実際に標準化で成果を出した方々のリアルな話も聞けますし、裏話も出せればと思います。ぜひ会場で続きを話しましょう。

下農 淳司(シモノ・アツシ)氏
慶應義塾大学SFC研究所政策・メディア研究科特任講師/W3Cテクニカルスタッフ。2010年京都大学大学院理学研究科で博士(理学・宇宙物理)取得後、東京大学KavliIPMUなどで観測装置の開発に従事。2018年からW3Cプロジェクトに参加し、国際化・Immersive Web・Timed-Text・Devices and Sensorsの各WGを担当。2000年頃からMozilla日本コミュニティやhtml5jの運営にも関わり、W3C国際化WGでは日本語組版タスクフォースなどでも活動。
2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、16時15分開始セッション「新産業創出のルールメイキング戦略 〜変化する世界にスタートアップはどう適応する?~」にて、慶應義塾大学SFC研究所の下農淳司氏にはモデレーターとして、またW3C国際化WGでの経験をお話いただきます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。
「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要
▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)
【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
【入場方法】事前登録制(入場無料)
18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/
※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)
































