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「適切な評価基準なくして先進環境事業は成立しない」国際標準策定に関わるルールメイキング戦略

ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:日揮ホールディングス 田中悠太氏

連載
ASCII STARTUP TechDay 2025

 地政学リスク、気候変動、AIの進化──世界が揺れる中で、新しい産業を切り拓くディープテック・スタートアップに必要なのは「ルールを読む」力だけではない。むしろ「ルールを創る」視点が問われている。ASCII STARTUP TechDay 2025では、「新産業創出のルールメイキング戦略」をテーマにセッションを実施する(セッションの概要はこちら)。今回は、事業開発のなかで国際標準の策定にエキスパートとして参画する日揮ホールディングス株式会社の田中悠太氏に話を聞いた。

――まずはこれまでの経歴を簡単にお聞かせください。

 2009年に日揮に入社し、機械系エンジニアとしてプラント設備の詳細設計を担当しました。サウジアラビアやインドネシア、カタール、北米、モザンビークなど海外案件が中心で、8年間は設計漬けの日々でした。その後、ローテーション制度で手を挙げて事業投資部門に異動し、中東の発電事業や海水淡水化事業といった投資アセットの運営管理、国内では太陽光発電事業の売却などM&Aにも携わりました。2019年からは新規事業開発部門として新設されたサステナビリティ協創ユニットに所属し、廃プラスチックのケミカルリサイクルを中心に、資源循環に関わる新規事業の立ち上げに奔走しています。

――今回のテーマは「ルール形成」ですが、リサイクル分野ではどのような課題があるのでしょうか。

 私が直面してきたのは、世界的にも社会実装の先行事例が限られた技術、しかも環境関連の事業を実現するにあたり、それを適切に評価するための「ルール」が決定的に重要だということです。例えば、廃プラスチックをリサイクルできても、そのリサイクルの過程で化石資源由来のエネルギーを大量に使うとしたらトータルでの環境負荷は大きくなってしまい、本末転倒です。日本では「アップサイクル」という言葉がよく使われ、それだけでポジティブな印象を持たれることがありますが、脱炭素の側面から言えばサプライチェーンを通してCO₂削減につながらなければ意味がないのです。

 つまり、サプライチェーンを通した環境負荷算定の基準が曖昧なまま合意形成できていないと、せっかく社会に貢献できる技術も正しく評価されません。実際、省庁や自治体と、認可や支援を受けるための話をするなかでも、「どのルールを適用しているのか」「海外で認められているのか」と指摘され、事業化が進まない場面がありました。前例のない新しい技術やビジネスほどリスクに目が行くのは当然と言えますが、単に画期的な技術を持っているだけでは十分ではなく、それが社会に受容される土壌や仕組みを整えることが不可欠なのです。そのような課題に向き合うなかで、リサイクルを含む環境負荷算定に関わる国際標準の策定に携わるようになったのです。

――国際標準化にも関与されていらっしゃるのですね。現場で実感されたことは?

 協議内容についてはお話できませんが、国際会議の場で各国の研究者や企業出身のエキスパートと議論ながら、文書を起案し公式発行に向けたドラフトに落とし込む作業を行なっています。2024年は会議出席のためブラジルや韓国にも行きました。国際会議の場では、発言しなければ存在しないのと同じです。黙ってただ参加する出席者は基本的にいません。専門性の度合いは問わず、目的を明確にした発言をすれば、それは尊重され協議の土俵に乗りますし、文章の細かな表現ひとつを指摘しただけでも採用されることがあります。自分も参加当初は様子を見ていたものの、すぐに「発言しないのは損である」を実感しました。また同時に「世界のルールメイキングはこのように行なわれているのか。策定の場に入り込み適切に発言すればそこに関与できるのだ」と認知しました。これまで日本は世界でつくられたルールを従う側に回りがちなどと言われてきましたが、変えられる面も多分にあると考えます。

――得られた成果や今後の課題をお聞かせください。

 日本提案として提示した内容が標準のドラフトに反映されたのは小さくない成果です。一方で課題は、標準が正式発行されても、その内容が関係するステークホルダーに浸透しなければ実効性が伴いません。今後は関係する専門家の方々とも連携しながら、日本発の素晴らしい技術や事業が正しく評価される環境づくりを進めていきたいと考えています。

――こうした活動はスタートアップにも関係しますか。

 大いに関係すると思います。国際標準例えば国内の脱炭素領域では、政府が主導する「GXリーグ」のように多様な企業が参画できる枠組みがあり、具体的な分科会などではスタートアップがルールメイキングを含めた議論をリードするケースも見られます。そうしたオープンな議論の場も活用しながら事業創出や拡大に必要となるルールメイキングに関与することが可能であり、またそのような動きは領域の既存関係者に対してもポジティブな刺激や活力を与えるものと認識しています。

――TechDay当日はどんな話をされますか。

 セッションタイトルにもある通り「新産業創出のルールメイキング戦略」がテーマです。ルールメイキングに積極的に関与する重要性を、具体的な経験談とともにお話しします。当日は他の登壇者との議論からも、事業分野などを限定しない多面的な視点を共有できればと思います。

――最後に、メッセージをお願いします。

 日本がルールメイキングを得意としない、ルールメイク側に立てない要因は複層的なものがあると思いますが、間違いなくメンタリティに依る部分も大きいはず。その観点からすれば、これまでと別次元のマインドで動けるスタートアップにとっては弱みどころかチャンスとなる領域だと考えます。当日はぜひ会場で続きをお話ししましょう。

田中 悠太(タナカ・ユウタ)氏
日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創ユニット。イノベーション推進グループ Deputy Program Manager。2009年入社後、プラント設計や海外EPCプロジェクトに従事。その後、事業投資部門で発電・海水淡水化事業の投資管理やM&Aを経験。2019年より現職。廃プラスチック向けケミカルリサイクルの実装を推進するとともに、関連する国際標準の策定に参画。社外では始動Next InnovatorやYOKOHAMA CONNECT by Venture Cafeアンバサダーなどで活動しながらオープンイノベーションを推進。

 2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、16時15分開始セッション「新産業創出のルールメイキング戦略 〜変化する世界にスタートアップはどう適応する?~」にて、日揮ホールディングスの田中悠太氏に国際的なルールメイキングの最前線について、お話いただきます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。

 「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要

▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)

 【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
 【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
 【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
 【入場方法】事前登録制(入場無料)
       18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
 【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
 【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
 【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/

 ※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)

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