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「1年で8割が辞める」警備の常識を覆す、Strayaが描く「辞めない仕組み」とは

100社が導入した「KUMOCAN」、累計1億円超を調達したStrayaの次の一手

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このスタートアップに聞きたい

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“採用しても減っていく”前職で見えた矛盾

 渡辺氏が前職のIndeed Japanで担当していたのは、大手警備会社の新規採用支援だった。採用側からすれば、同じ顧客が繰り返し求人を出してくれるのは売上につながるが、裏を返せば、依存度の高い顧客を失えば自分の数字は大きく崩れるという不安もあった。何より、採用しても採用しても人が減っていく現実に直面する。

 「1000人取っても、1000人辞めていく。新規採用をゴリゴリがんばりましょう、というだけでは解決にならない。根深い課題を感じました」(渡辺氏)

 顧客の現場に寄り添う中で、その葛藤は次第に「これはビジネスチャンスになるのでは」という確信に変わっていく。人が定着しない限り、いくら採用しても焼け石に水。だったら“辞めない仕組み”を作るほうが絶対に価値がある――。その直感が起業への一歩となった。

 そして2023年、CTOの伊藤馨氏とともにStrayaを創業。課題を机上で語るのではなく、まず自ら体験することから始めた。

 「エンジニアも含めて全員が警備員として現場に立って働きました。実際にやってみないと分からないことばかりで、顧客解像度を上げるにはそれしかないと思ったんです」

 そこで直に感じたのは、現場特有の“泥臭い課題”だった。

 「思いついたのは業務の効率化ツールでしたが、それでは響かないことに気づきました。結局のところ、根っこにある“辞める原因”をどう取り除くかが重要なんです」

退職予測と最適配置をAIで

 Strayaが提供するのは、警備業界向けDXプラットフォーム「KUMOCAN(くもかん)」だ。2024年6月に正式リリースし、この1年でおよそ100社が導入している。

「KUMOCAN」のアプリ画面

 「提供しているのは、大きく2つです。ひとつは退職リスクを検知する仕組み。やめるって言われる前に気づいて、早めに手を打てるようにすること。もうひとつはAIによる自動配置で、人の勘に頼ってきた現場配置をデータに基づいて最適化していくことです」と渡辺氏は説明する。

 新人が不人気な現場に穴埋め的に入れられてすぐ辞めてしまうケースは少なくない。しかし同じ現場でも、合う人と合わない人がいる。

 「内勤の人が気づいていないだけで『嫌いじゃない』という層も一定数いる。それをデータで見える化して、ハッピーな配置をつくっていきたい」

 現在は、コンサルティングとプロダクト提供が半々のフェーズだが、すでに離職抑制の事例も生まれているという。今後はさらにプロダクトをチューニングし、年内にはAIによる自動配置と退職防止を本格的に実現する計画だ。

 「これまでパワープレイでやってきた部分を、プロダクトに落とし込むフェーズに入っています。年内には“うちのサービスを使っている企業はちゃんと離職が抑えられている”という状態に持っていきたい。これからはプロダクトで全ユーザーが確実に成果を得られる状態を作りたい。今はその消化をしていくタイミングです」と渡辺氏は意気込む。

調達で加速、目指すはコンパウンドスタートアップ

 2025年9月、StrayaはDNX VenturesやDG Daiwa Venturesをはじめとする投資家から資金調達を実施し、累計で1億円を超える資金を確保した。調達資金はプロダクト開発の加速、営業・カスタマーサクセス体制の拡充、人材採用に投じられる。

 同社が掲げるビジョンは、「テクノロジーの力で警備を若者が憧れる職業にする」ことだ。

 「警備という仕事に、若者が憧れるなんて想像できないかもしれません。でも、同じように厳しい仕事でも、警察官になりたい子どもはいますよね。警備も“治安を守る仕事”としての地位を高めれば、必ずそういう層は生まれるはずなんです」

 将来的には「採用・育成・マネジメント・定着・再雇用」までを網羅するコンパウンドスタートアップとして、人材課題を包括的に解決する構想も描いている。さらに、警備業界で培ったモデルを建設や介護といった他の労働集約型産業に展開する余地もありそうだ。

 「今の日本は、人に困ってない会社に出会う方が難しい。僕らが警備で作った仕組みを横展開していけば、まだまだマーケットは広がると思っています」

 「採用してもすぐ辞める」「人気がない職業だから仕方がない」という、これまで業界があきらめてきた常識を変えようとしているのがStrayaだ。

 創業からわずか2年。まだ若いチームだが、その挑戦は警備業界だけにとどまらない。人材不足に悩むあらゆる産業に共通する課題に対して、Strayaの試みは“辞めない仕組み”をつくるモデルケースとなるかもしれない。

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